転生したゲーム世界で脇役キャラなのにヒロインに好かれた俺は、なぜか現実世界でもモテまくる

波瀾 紡

第1話:ゲーム世界に迷い込んだ俺

**

【◇現実世界side◇】


 親に頼まれて自宅倉庫の整理をしたら、奥の方から祖父の遺品が出てきた。

 その中に古びた鍵とメモ書きがあった。


『牧矢高校校舎裏、祠の鍵。取扱い注意』


 牧矢まきや高校ってのは俺が通う私立高校だ。

 なぜ祖父がそんなものを持っていたのか不明だが、祖父はその昔、神主をしていたからその関係かもしれない。


「取扱い注意ってなんだよ。気になりすぎる」


***


 俺は時任ときとう 悠馬ゆうま、私立牧矢まきや高校2年生。

 彼女はいるかって?

 そんなのいない。


 それどころか人とのコミュニケーションがあまり得意じゃないせいで、2年生の6月になった今も学校で特に親しい友達はいない。ふむ。


 まあでも特に不便はないし、起伏のない高校生活ってのも悪くはない。

 別に虚勢を張っているわけじゃなくて、マジでそう思ってるんだって。


***


 俺は翌朝早めに登校して、授業が始まる前に校舎裏に向かった。


「おおーっ、あった!」


 校舎裏にうっそうと生い茂った雑木林があり、その奥に古びた白いほこらがあった。

 この高校に入学してもう1年ちょっと経つけど、こんな所に足を踏み入れたのは初めてだ。


 俺はポケットから鍵を取り出し、祠の扉の鍵穴に挿し込み回した。カチリと乾いた音が鳴り、扉がすぅーっと開く。


「うわ、眩しい!」


 扉の奥から突然眩い光が溢れ出た。目が眩み意識が遠のく。そして祠の中に吸い込まれるような感覚がした。




【◆ゲーム世界side◆】


 目が覚めるとそこは雑木林の中で、すぐ横にはさっきと同じ祠がある。何ごともなかったように扉は閉じている。


 体調は……特に問題ない。


 さっきの光はなんだったんだ。

 あっ、やべ。朝のホームルームが始まってしまうぞ。

 とにかく一旦教室に戻ろう。




 雑木林から出ると、目に飛び込んで来たのは見慣れた高校の景色ではなく、中世ヨーロッパ風のレンガ調の建物だった。

 異世界ファンタジーのアニメでよく見かける学校の建物みたいだ。


「うわ、なんだここ!?」


 行き交う人達が着ている制服は、牧矢高校とはまったく違うデザインだ。

 男子は白、女子はえんじ色の短めのジャケットで、スタイリッシュな制服。

 よく見ると俺も他の男子と同じ白い制服を見につけていた。


 これはまるで──


「『マギあま』の世界っ!?」


 『マギあま』ってのは正式タイトルが『魔法学園マギアの甘い学園生活』という、俺が中学生の時にどハマりしたゲーム。

 異世界の魔法学園を舞台に、魔法使いを目指す美少女達との恋愛を楽しむファンタジー系学園ギャルゲーだ。

 そして彼女たちを育成して魔法力を高め、ラスボスの魔王を倒すことが目的である。


 で、俺はゲーム世界の中に入り込んでしまったのか? 

 いやいや、んなアホな。こりゃきっと夢だよな。


「いってぇぇぇっ!」


 頬をつねったら、思い切り痛かった。どうやら夢じゃない。


「ユーマ・ツアイト君!」


 うわ、びっくりした!

 急に横から声かけんなよ。誰だよ?


 振り返るとそこには美しい赤い髪の少女が立っていた。

 きりっとした顔つきのとびきりの美人。気が強そうだな。


「早く教室に入らないと、朝のホームルームが始まってしまいます。遅刻になりますよ」


 そんなに睨まないでくれ。

 めっちゃ美人なのに怖い。


「えっとキミは……誰だっけ?」

「はぁ? なにをとぼけてるのですか? 同じクラスの委員長のレナ・キュールですっ! あなたって人はいつもサボってばかりだし、他人をバカにするし。ほんっと、どうしようもない人ですね!」

「あ、ああ、はいはい。レナ・キュールだよね。知ってた」


 この美少女、どこかで見たことがあると思った。

 ゲームのキャラはアニメ絵なので気がつかなかったけど、そう言えばこのキャラは『マギあま』のメインヒロインの一人だ。


 その時、このゲーム世界での俺の記憶が頭の中に流れ込んでくるのを感じた。

 俺が本当にゲーム世界に入り込んだことが、不思議と確信できた。


 俺の本名は「時任ときとう 悠馬ゆうま」だが、この世界では「ユーマ・ツアイト」だ。


 17歳でマギア魔法学園の2年生。

 不真面目でだらけた脇役キャラ。

 ヒロインに嫌われてるのにちょっかいを出して、主人公キャラに懲らしめられる役割。


 ──つまり主人公の引き立て役。


 うん、まあ、なんて言うか……最悪だっ!

 リアルの世界でも友達は少ない俺だけど、さすがに嫌われ者ではない。


 ゲーム世界の中とは言え、嫌われ役は悲しすぎる。


 どうしよう……。できるだけヒロインに嫌われないように、真面目な態度でいよう。


 ──うん、それがいい。


 記憶が流れ込み、このゲーム世界にいる違和感が薄れたせいなのか。

 この時の俺は、元の世界に戻りたいという発想が不思議と湧かなかった。


 それにゲーム世界に入りこむなんて、こんな面白いこと、もう少し体験してみたいという気持ちもあった。


「なぜ黙り込んでいるのですか? あなたはいつも不真面目すぎます。いい加減反省してください!」


 レナ・キュールは、どうしようもなくダメなものを蔑むような目を向けている。

 やめて、そんな氷のような冷たい視線。


 俺が色々と考えてる間に、人の話を聞いてないと思われてしまったようだ。

 やべぇ。真面目で正義感の強い彼女に、さらに好感度ダウンさせてしまった。


 ちゃんと答えなきゃ。


 自慢じゃないが、俺は女子と話すのは苦手だ。うまく話せる自信がない。

 だけどゲームの中なら大丈夫だ。パターンを見極めたらそれなりに上手く会話できるし、今までちゃんとヒロイン達を攻略してきた。


 ──よし!


「ごめん。俺が悪かった」

「……え?」


 俺の素直なリアクションがあまりに意外すぎたのか、レナは口をぽかんと開けて固まっている。


「ちゃんと反省して真面目にするよ」

「あ、いえ……わかればいいです。でもあなたは今までちゃんとやると何度も言って、でもやらなかった。だから簡単には信用できませんけど」


 ゲーム世界での記憶にあるのは、確かにレナが言うとおりの行動をしてきた俺だ。

 なかなか信用してもらえなくて当たり前か。

 でもこんな美人に嫌われる生活ってのも悲しい。


 よし。真面目な行動を続けて、この真面目で厳しい美少女からも、せめてこれ以上嫌われないようにしたい。

 うまくやれるかどうかはわからないけど、まあ好かれるなんて大きな目標じゃなくて、嫌われないくらいならなんとかなるだろう。


「なにをやってるのですか? とにかく早く教室に入りましょう」


 また睨まれてしまった。


 俺はレナの後ろについて教室へと向かった。

 後ろから眺める彼女の赤い綺麗な髪が、ゆらゆらと揺れるのがとても印象的だった。


 いやマジで、この生真面目な美少女から、睨まれない日はやって来るのか?

 うーむ……前途多難かもしれない。トホホ。

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