第26話 髪を切ると気分も上がる

 髪を切ってもらいながらパンデラとおしゃべりする。


「獣人ってことは、ミュルルと同じ世界からきたんですか?」

「ううん。全く別よ。ミュルルのお顔には、残念ながら毛がないでしょう? 元々の種族が違うのよ」


 なるほど……ということは、アンバー館長もまた違うところから来たのかも?


「この世界はね、違う世界から寄せ集められた人が集まっているから、考え方も習慣も色々。それぞれが、それぞれを尊重しながら生きていかなきゃなんないのよ」


 パンデラが、私の髪にハサミを入れながら色々と教えてくれる。

 それはもう、あのいい加減な女神様の低再生数動画よりもずっと役にたつ。

 カットして、ドライヤーを丁寧にかけてくれて髪を乾かして。

 話し上手のパンデラとの時間は、あっという間だった。


「さ、出来たわよ。どうかしら?」


 パンデラが鏡を持って出来上がりを見せてくれる。

 

 ……え、ナニコレ……


 パンデラ様、あなた、最高です。

 何これ……、え、こんなになるモノなの?

 美容師って、すごくない?

 私の髪、さっきまであんなにボサボサだったのよ。

 こんなにサラサラになるの?


 まるで魔法みたいだ。

 いや、顔は変わらないの。だから、絶世の美女になんてなれるわけがないけれど、髪を整えるだけで、こんなに表情って明るく見えるのだろうか。雰囲気って変わるのだろうか。

 今まで、元世界の美容室に行っても、ここまでは思わなかった。

 これは、パンデラの腕がすごいのか、ちょっとくらいは魔法を使っているのか。

 

「良かった。その表情は、気に入ってくれたのね」


 パンデラが満足そうに喉をゴロゴロと鳴らした。


 ◇ ◇ ◇


 髪を切ったから頭が軽やかだ。

 街の硝子にチラチラ映る自分の姿が、ちょっと楽しい。

 

 待っている場所は、ドMの忠犬ゴブリン像の前だけれども、きっと私は、周囲から見てもウキウキして見えたことだろう。


「おまたせ! わ、ずいぶん切ったね! 似合っている!」


 待ち合わせしてたミュルルが来て、早速髪を褒めてくれる。


「ミュルル、パンデラさん紹介してくれてありがとう! すごいわ」

「でしょう? パンデラは、天才だよ! 僕もいつもパンデラにカットしてもらっているんだ」


 クルンと回るミュルルの髪がサラサラと広がって、すっとまとまる。

 こ、これがパンデラのカット術。これは、私の元世界だったら、確実にカリスマ美容師として名を馳せていたくらいの技なのではないだろうか?

 私のこの強情なくらいに跳ねて持ち主を困らせる髪も、こんなに綺麗にまとまった。すごい。


「あ、ねえ、ラーラは?」

「ラーラさ、急用が出来ちゃって……」


 ミュルルが少し困ったような顔をする。

 どうしたのだろう。


「自動販売機で売ってた粘液スープにクレームが入って……」

「まさか、食中毒とか?」

「ううん、不味すぎて子どもが泣いちゃったみたいで……」


 おおぅ……。そんなに不味いんだ。

 そうよね。植物園の彫ろう園長が、あんなに不味そうにしていたし……

 




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