第25話 黒き獅子、パンテラ
「いらっしゃいませ!」
明るく応対してくれたのは、ライオンの顔した獣人さんだった。
ミュルルよりも動物要素は高く、全身モフモフ、顔はライオンそのものだった。
真っ黒なたてがみは、サラサラ。丁寧に整えられて、オス味とエレガントさを感じて、つい魅入ってしまうくらいだ。
筋骨隆々として、洋服の着こなしが、とっても格好良い。シンプルなシャツと、クロのパンツスタイルなのに、洗練されてみえるのが不思議だ。
「どうしたの? やだ! 食べやしないわよ?」
お……。真っ黒なタテガミの彼は、おねぇキャラのようだった。
オス味、なかった。タテガミとマッチョなボディに騙された。
「予約していた胡桃です」
「はい。よろしく! ミュルルの紹介で来た子ね。私は、パンテラよ。今日は、担当させてもらうわね」
パンデラは、とっても愛想の良い、素敵なライオンさんだった。
私は、促されるままに、洗髪し、カットのために鏡の前に座る。
ふんわりと薫るシャンプーの匂い。これ、ミュルルのいつも使っているやつと同じ匂いだ。ちょっと嬉しいかも。ミュルルのようにサラサラの髪になれるかもしれない。
店員も客も、色々な人がいる。
獣人、エルフ、妖精、ドワーフ……。人気のサロンのようで、朝早い平日なのに、混雑している。
「ミュルルが紹介してくれたからどんな子がくるかと思ったら、とっても美味し……可愛い子!」
今、美味しそう言おうとしたな?
肉的な意味で。
「で、今日はカットを希望でしょ? どんな髪型がご希望?」
「ええっと……手入れしやすくて……モサモサッとしない感じで……」
こういう時、きびきびと自分の希望を伝えられる人ってすごいと思う。
私は、苦手なのだ。
自分に容姿にさして自信も無いし、この雑誌の美人さんと同じに! とか言えば、「この見た目で? クスクス」とか思われていないかと不安になる。いや、パンデラはすごく優しそうだから大丈夫だとは思うけれども、長年の習慣は抜けない。……それに、「その髪型は……貴女の顔には、似合いませんよ?」なんて言われた日には、たぶん、ていうか、絶対に泣くし、立ち直れない。
もちろん、これは、完全なる私の被害妄想なのだろうけれども。でも、アニメの「ブスに好かれて不幸」なんて表現を見たり、「馬子にも衣装」的な表現を見て、ひそかに勝手に傷ついて、そういうことを、私ごときが口に出して所望することが出来なくなってしまっているのだ。
「そう……どうしようかしら……。貴女、美味し……じゃなくって、可愛らしいから、何でも似合うと思うけれども」
ちょいちょい、肉扱い発言が垣間見えるが、褒めてもらえるのは、お世辞でも嬉しい。
「え……ありがとうございます」
「ふふ。そうねぇ……ゆるふわ可愛いと、元気で明るいでは、どちらが好き?」
「元気で可愛いですかね……」
「じゃあ、しっかりお姉さんと、生意気妹系は?」
「えっと、しっかりお姉さん?」
これで、何が分かるのだろう? とりあえず、選択肢を二択に絞ってくれるのは、とても助かる。
「じゃあ、これなんてどうかしら?」
パラパラとパンデラが美容雑誌をめくって見せてくれたのは、眩しいくらいに素敵な、ショートボブのエルフ様のお写真。
毛先が少しクルンを巻いて、格好いいのに、可愛いのだ。
「うわ……素敵……」
「気に入った?」
「はい。でも、私に似合いますか?」
「馬鹿ね! それこそ、プロが勧めているのよ。似合うに決まっているじゃない」
パンデラ様! 素敵! 何、この信頼感!
パンデラに後光が見える。
「安心して、結べるギリギリにしておくから、鬱陶しい時には、結べばいいわ!」
頼りがいのある黒き百獣の王は、「この私に任せておきなさい!」と言ってウインクした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます