第38話

「でしたらこれを」


私はゴリラが会社から持って帰ってきたどこかの粗品タオルを玉木宏似の男に渡した。


「そうそうそうそうこの粗品のタオルのね、ちょっと薄いところがね意外と使いやすくていいのよね」


笑顔で受け取った玉木宏似の男。


「今日は本当にありがとうお世話様でした気を付けてお帰りくださいませね」


と玉木宏似の男に帰るように促す私。



「キスしてくれたら帰るよ」


「さっきしたでしょ」


「オッパイ揉ませてくれたら帰るよ」


「さっき揉んだでしょ」


「セッ○スしてくれたら帰るよ」


「…なぜ難易度を上げていくのかしら」


「あ、いっけね!」


「やだビックリした」


「俺、結婚するんだった」


「…忘れないわよね普通そんな大事なこと」


「だからごめん、美奈子とセッ○スできない。本当にごめん」


「なんで私がお願いしたみたいになってるんだろう」


「そろそろ行くわ」


玉木宏似の男は立ち上がり玄関へと向かった。



「会えて良かったよ」


「そうね」


「あのバナナ好きそうな男と幸せになれよ」


「アンタもね、ってだからはっきりゴリラって言いなさいよ」


「あははっ」


靴をはいた玉木宏似の男がくるりとこちらを向いた。


「最後にもう1回だけキスしよ?」


「いたしませ――」


私の許可もなく、私の返事を聞くよりも前に玉木宏似の男はチュと短いキスをしてきた。本当に一瞬だった。



「…この事バナナ好きそうな男に言うなよ?」


「…いい加減ゴリラって言いなさいって」


「あのバナナ好きそうな男みたいな男ってのは意外と繊細だったりするからな」


「……」


ゴリラの事よくわかってるじゃない。



「もうすぐ警察来ると思うから」


「恐れ入ります」


「じゃ」


と言って去って行った。

と思ったらすぐに玄関のドアが開き


「すぐ鍵しろよ!じゃ」


と言って結局1回も「ゴリラ」と言わないまま今度こそ本当に去って行った玉木宏似の男。


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