第36話

私の家まで玉木宏似の男に送ってもらう。

本命の恋人という設定なので手をつないでいる。


「いいか?台本通りやるんだぞ?」


耳元で囁く玉木宏似の男。


「はい監督」



マンションの前。


玉木宏似の男が入口側に立ち、私は道路側。私がストーカー男に背を向ける形。


「うわー見てる見てる」


「もう…早くして…」


「はいスタート」



後藤ー!ごめんなさーい!


でもこれはストーカーを撃退する為の…そう正当防衛!


私は女優!大女優!正当防衛!



シーン1。


玉木宏似の男が私をやさしく抱きしめる。

背中に腕を回すように演技指導されている私。

玉木宏似の男はキスをしてきた。それはすぐに深くなって。


…まさかとは思ったけどリアルすぎるわよ。



「…ちょっと」


私は唇をずらした。


「まだ見てる」


そう言ってまたキスをしてきた。


「ん…」


「美奈子とのキス久しぶり」


キスの合間に私の耳元で囁く玉木宏似の男。


「思い出しちゃうな」


「やめてよ」


「まだ見てるぞ」


「やだぁ…」



この時、玉木宏似の男は私を強く抱きしめながら、ストーカー男をじっと睨み『本命の男』として余裕の笑みを見せた。



らしい。



しばらく濃厚なキスシーンを繰り広げていたのだが、調子にのった玉木宏似の男の手がついに私の胸まで伸びてきた。



「ねえ」


「ん?」


「そこまでは聞いてない」


「アドリブきかせろって」


「…さてはもういないな?」


「……」


「いないのね?」


「バレちゃったかー!」


玉木宏似の男は笑いながら私から離れた。




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