汚れた私を綺麗な目で見つめて。
黒井はな
汚れた私を綺麗な目で見つめて。
「しょうもない童貞ばっかだなぁ」
まるで、コレクションのように飾ってある男とのツーショットのプリクラをコルクボードにまた今日も一つ私は貼り付けた。
どうしようもなくクズだった初カレにを処女奪われてからというもの私は火遊びばかりしていた。
特に遊び相手にしたのは、マッチングアプリなどで全く女の子と遊んだことの無い、いわゆる童貞を選んで捨てるということを私は繰り返していた。
両親には同じ人と付き合っていると言ったが、そろそろバレているだろう。友人にはとんでもないビッチと思われて縁を切られてしまった人も何人かいたが、別にどうでもよかった。
「この虚しさが埋まるなら、どうでもいい」
初カレは、どうしようもないクズ男だったと知ったのは別れた時だった。
交際期間は半年。
長くも短くもないそれくらいの期間。
今でもあんな男と付き合っていたと思うと気持ち悪い。
出会ったのは、学校で。
関係性は、クラスメイト。
目をつけたのは、カレの方から。
告白したのは、私から。
きっかけ単純だった。
隣の席になった私たち、カレはどうしようもなくだらしがなくて。放っておけない性格の私が面倒を見ていた。
そんな日々の中でカレは私のことを好きになったのだという。
私が告白したのは、いじめられていたところを助けられて絆されたから。
別れたのは、一瞬。
ある日突然、別れてくれと言われて理由も言わずにカレは立ち去った。
後々聞いた話だと、男友達と何ヶ月で私に手を出せるのか賭けていたのだとか。
興味も何も無い私に目をつけたのは、ちょろそうだったから。
それから、学校や親にカレとしたことをばらされたくなかったらヤラせろという男たちに振り回された。
それからというもの私は、経験が少なさそうな男を選んで私と同じ目に合わせている。
大学進学のために上京した私に母から電話があった。
「地元の成人式のお知らせが届いていたわよ」と。
正直、行きたくなかった。
今の私を見たところで失望されるだろうと思った。男に騙されて男あそびばかりしている私に誰が来て欲しいのだろうと。
綺麗だった頃の私を汚しに行きたくなかった。
だけど、親友のユウカから久々に連絡があった。
「一緒に成人式行かない?大西くんも来るってよ」
大西くんとは、私の初恋の相手である。
中学一年の春から好きで告白するつもりだった人。
でも、それこそ会いたくない。
こんなに汚くなってしまった私を会わせたくない。ごめん、行かないよと言おうとしたら。
「まだ、持ってるんでしょ?あの絵」
そう言われて、私はクローゼットの中にしまい込んであった絵を取り出した。
そこには、私が当時大好きだったキャラクターの絵が描かれていた。
彼の絵は、コミカルで力強いタッチで描かれているのが特徴的で、彼が好きだというアメリカの漫画をモチーフにしているというのを未だに覚えていて笑ってしまった。
「行こうかな。彼が何してるか気になる」
彼を好きになったのは、中学一年生の春のことだった。
彼が一生懸命にノートに絵を描いているのがとても素敵だった。
私は休み時間になる度に彼の机の前まで行って、上手な絵を眺めるのが日課だった。
たまに彼が絵を教えてくれたり、手を握ってくれたり、ふざけて手を繋いでくれたのにはほんとにときめいしまっていた。
中学三年生の卒業式の日に告白しよう。と、三年生になった時には覚悟を決めていた。
だが、パンデミックのせいで学校は休校になり、卒業式も極小規模で行われ、式が終わると同時に解散するように先生方に言われ皆やりきれない思いを抱えながらの卒業となった。
数年後、成人式で私は彼に再会した。
彼は今漫画家になるための勉強しているのだという。
そんな彼に告白した。
汚れてしまった私を綺麗な目で見つめて。
「ごめん、僕夢を叶えたいから」と彼は言った。
私は、泣くのをぐっとこらえて「そうだよね」と言って立ち去ろうとした。
そんな私を彼は引き止めた。
「でも、昔から僕を見つめてくれる目が綺麗だったよ。今もその目は変わってないね。ユーリさんは、きっと分からなかったと思うけど。僕は、ユーリさん綺麗で素敵な人だと思う。僕みたいな漫画に人生かけてる人じゃなくてさ。もっと素敵な人を探して幸せになって欲しいと思う。ずっと応援してるよ」
彼はそう言って微笑んでくれた。
「私も」と、私は彼の目をしっかり見つめて。
「私も、ファンとして貴方を応援してます。大好きでした」と、言った。
汚れた私が洗い流されたようなそんな気分だった。
汚れた私を綺麗な目で見つめて。 黒井はな @taohinata
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