エンドロール
花園ひなた
第1話・不運な少年
「昔から運がないなと思っていました」
欲しいと思ったものが、僕の目の前で売り切れたりとか、クラス替えで必ず僕だけ、別のクラスだとか、好きな人を、親友に取られたりだとか、ペットが、僕の不注意で亡くなったとか、お母さんが、いなかったりとか、姉が、姉が。姉が。父が、父、ち、ち、ちちちちちちちちちち。
血。
血。
血。
血だ。
声が聞こえる。誰の声だろう。
「ユウ、目を覚ましておくれ」
あぁ、ああ、あなたの声ならば僕は目を覚ましたい。
「父!」と、僕は叫んで飛び起きた。
「おぉう、元気いっぱいだなぁ」
僕が、目を覚ました場所はどこか分からなかった。何だか、海の中のような真っ青な光が差し込む白い箱のような空間に僕と父はいた。
「えっ、父。怪我は!?大丈夫なの?」
「・・・」
父は、無言で僕を見て微笑んでいる。
「えっ?父?聞こえてる?」
「聞こえているよ。その問いかけには応えたくないだけさ」と、いつもの穏やかな口調で父は言った。
「えっ、あ」
僕は、その答えに絶句した。
そして、ここに至るまでの一部始終を思い出した。
今日は、僕の発表会の日だった。
その帰りの出来事だった。
父の車の運転で、僕が後部座席で姉さんが助手席に乗っていた時のこと。
目の前から暴走した車が突っ込んできて、目を開けたら父も姉さんも血まみれだった。
「あ、あ、あぁ」
僕は声にならない声を出しながら泣いた。すると、父は背を優しく優しくさすってくれた。そして、訳の分からないこと、いや、訳を分かりたくないことを言い出した。
「いいかい、ユウ?」
良くないよ、父。
「これから、ユウは一人で生きていくんだよ・・・そんな寂しい顔をしないでおくれ」
そんな顔できるわけないじゃないか。
「天使様がね、こうやって俺とユウとの別れの時間をくれた。それだけでも良かった」
天使がいるんなら、父を助けてくれよ。
「これから、辛いこと苦しいこと、きっと沢山あるかもしれない」
これ以上に辛くて苦しいことなんて・・・。
「でもね、ユウは強い子ユウは優しくて勇気のある男の子だから、きっと乗り越えられる。父は、そう信じている」
酷いよ、そんなこと言われたら。
「だから、どうか。どうか、どうか。生きていておくれ」
そう言って万年の笑みで父は僕の背をどんと押した。
水の中に沈んでいくようなそんな感覚だった。
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