別の影

放課後、僕らはハンバーガーショップに来ていた。

山田も神田も僕と勇者のことを聞いてくるが、

「分からないんだよ...」

としか言えなかった。

僕は青い紙切れをテーブルの上に置く。

「..これ..何なんだろう..」

神田が青い紙を拾い上げて眺めている。

「..さぁね..」

山田もそれに倣う様に見つめるのだった。

僕は青い紙を見ながら、勇者のことを考えていた。

彼女は何者なのだろうか?

何でこんなことをしているのか...

そして、どうして僕にばかり絡んでくるのだろう?

先輩が魔王とは何だろうか?

異世界転生が大好きな残念な子かな。

そんなことを思っていると

「ねぇ、桜井」

山田が僕に話しかけてくるのだった。

僕は山田の方を見る。

「..どうした..?」

「今度、出てきたらきちんと事情を聞いてみない?」

自分を勇者と言い張る者の事情とは?

しかし、今日は廊下で謝っていた。話が全く通じない訳ではなさそうだ。

きっと何かの理由があってのことなんだろう。


それからしばらく勇者は現れなかった。

僕は星乃先輩の部活のない日に、一緒にバスで帰っていた。

ある日、バスの中で彼女は僕にこう言った。

「ねぇ...桜井くん...」

彼女の表情は暗かった。

「...何ですか?」

「最近...私に付きまとう人がいて...」

その言葉に心臓が止まりそうになるのを感じながらも僕は聞いた。

「あいつ、まだ...」

「いいえ、違うの。彼女じゃない...」

「え、別のやつ?どんな?」

「はっっきりとは分からない。でも男の人だと思う...」

先輩は美人だ。ストーカーが現れてもおかしくはないかもしれない。

「ストーカーですか...ね?」

「...分からない。だからお願い家まで一緒に帰ってほしいの」

「いいですよ」

僕は即答した。

先輩はほっとしたような顔をした。

そして、バス停につき、そこから僕たちは彼女の家に着くまでの間、他愛ない話をしていたのだった。

特に誰かにつけられている気配はなかった。


僕は先輩を家まで送ると、少し方向が違う自分の家に帰った。

家では妹の由依が夕飯の支度をしていた。

「お兄ちゃん、遅いよ...」

「ごめん。ちょっとな...」

「彼女?例のバスの先輩?」

妹は中学生なので学校は別だが、僕がうっかり話してしまったのだ。

「うぅん。まぁ、まぁ、なぁ」

僕は何とも曖昧な応えをする。

両親は一緒に住んではいない。海外転勤でロンドンにいる。

今度は中国に引っ越すとかしないとか言っていた。

僕ら兄弟は日本から出るのが嫌だったので祖父母の家が近い、この街で3年前から兄弟だけで暮らしている。だいたいの家事は妹に任せっきりだった。

妹は僕とは違って明るい性格でここに引っ越してからもすぐに打ち解けて友達が多そうだった。

僕は夕食を食べ終えると、すぐに自分の部屋に戻りベッドに身を投げ出したのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る