#14 アリエの日記 12月5日2138年

今日私たちは道すがら、ダイナーで食事をしていた。未だ夕方の時間帯だったからか、お客さんでにぎわっていて、ウェイトレスさんは忙しそうにくるくると動きっぱなし。

私はチーズのかかったポテトとマカロニを、デイルおじさんはチリドッグ、それからナッツとビールを頼んだ。

食事が届くと、私達は乾杯をした。ちょうどその時、「相席、いいかな」って聞かれた。

顔をマカロニから上げると、そこには、長い金髪を簡単に後ろで結った、男の人がいた。

おじさんの顔を見る。構わないとでもいうように目くばせして、すぐにチリドッグに注意を払う。

「どうぞ」そう言って、通路側の椅子を引いてあげた。

「どうもありがとう」丁寧な言葉遣いが印象に残った。

私達は身の上話をした。デイルさんは奥さんを殺した人を探していること、私はデイルおじさんに助けられたこと。私とデイルさんは相棒になったってこと! 

そんなことを私はその人に話した。

彼はスウィフトと言う名前の吟遊詩人だそうだ。あちこちを旅しながら歌を歌って、お金をもらって生活をしているらしい。

根無し草ってやつだよね、とスウィフトさんに言ったら、笑ってた。おじさんには小さな声で、失礼だぞ、って怒られた。

なんか、言葉、間違って覚えてるかなあ。

「はは。根無し草って言葉は、いい印象は無いね。少なくとも初対面の人に使っていい言葉ではないかな。僕は風来坊って呼ばれるほうがまだましかなあ」

スウィフトさんにやんわりとたしなめられた。優しい人だ。

この時、またデイルおじさんの傷が蠢き始めた。

「ミューテチウムの侵食だね……。ちょっと待ってて、いい薬がある」

スウィフトさんはカバンを漁って、その薬を譲ってくれた。

すごく、良い人! おじさんも、お礼を言っていて、おじさん、不愛想だけれど、ちゃんとお礼を言える人なんだなあ、って感心した。

それをおじさんに伝えたら、俺は子供か、って言われちゃった。

「君たちみたいな面白い人に会えるなんて、今日はいい日だなあ」って朗らかに笑ってた。

よし、とスウィフトさんは張り切って、「今日は気分がいいから、歌を披露しよう」

そう言って角ばった形の、変わったギターを取り出して、歌い始めた。


歌ってくれたのは、恋愛の歌だった。切ない、出会いと別れの曲。

周囲のお客さんもこちらに体を思わず向けて、聞きほれるような歌声。巧みな指さばきのアルペジオ。

デイルおじさんも、歌声に耳を傾けながら静かにビールを飲んでいた。

私も目を閉じて、食べるのも忘れて、聞き入ってしまっていた。

でも、途中から何か様子がおかしく感じられた。

美しい調べの中に、なにか違和感を感じる。

ある意味ノイズのような……歌詞ではない、音なのかもわからない。

例えると綺麗で静かな水面の上で、石が浮いているような、そんな奇妙な感覚。

今になって思い返してみると、なんてことはない、ささくれみたいな小さな違和感だったんだけれど、その時の私は、不安にかられた。

ハッとして、辺りを見回す。周囲の人たちは、みんな、スウィフトさんの演奏に、なにか変なところを感じている人はいなさそうだった。

デイルおじさんもそう。

演奏が終わり、ダイナーは拍手に包まれた。

スウィフトさんはお客さんたちに囲まれ、肩を組まれたり、おひねりをもらって、他のテーブルに連れてかれたりした。

スウィフトさんは私にひらひらと手を振ったけれど、私はあいまいに頷くことしかできなかった。

なんなのだろう、あの感覚……。う~~~~ん……。

ま、考えていても仕方ないか! もう寝よう。明日も早いしね!

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