第1章28話:圧倒

俺はさらに追撃を浴びせようと、斬撃を放つ。


だが、これはヴェルナンに回避された。


しかし、次に俺が放った追撃は、ヴェルナンの頬を切りつける。


ヴェルナンが反撃してくるが、それを回避した俺は、カウンターでヴェルナンの足を斬りつける。


少しずつダメージを負わせていく。






<ラミアリス視点>


ロッシュとヴェルナンの戦いを、傍観ぼうかんしていたラミアリス。


彼女はロッシュの戦いぶりに驚嘆きょうたんしていた。


「すごい……」


衛兵隊長の翻弄ほんろうするかのような、ロッシュの動き。


初見では対処が難しく思える攻撃にも、ロッシュは的確かつ完璧に処理している。


鮮やかすぎる手並てなみだ。


(あの衛兵隊長だって、かなり強いのに……)


自分がもしロッシュの立場だったら、衛兵隊長にとっくに殺されているだろう。


それぐらい衛兵隊長の剣術のキレは鋭く、レベルも高いことがわかる。


しかしロッシュは、衛兵隊長と互角以上の戦いを繰り広げ、着実に追い詰めている。


もはや現在は、ロッシュの一方的な展開となり、衛兵隊長を圧倒している状態だ。


(ロッシュ……あなたは本当に、何者なの?)


同じ幌馬車ほろばしゃの中で、向かいに座っていたロッシュ。


彼の階級印は「十」であり、間違いなくルーカーである。


ところがルーカーとは思えないほどの実力を持っている。


何より知識力ちしきりょくがすさまじい。


ロッシュは盗賊の情報も、魔物の情報も、衛兵の行動パターンも、全て把握している。


いくらなんでも知りすぎている……と感じるほどだ。


いったいどこから、それらの情報を得たのだろうか?


ラミアリスには全く見当もつかない。





<ロッシュ視点>


俺と衛兵隊長の剣戟けんげき


しかし、勝負の趨勢すうせいが俺のほうへと大きくかたむいているのは明らかだった。


俺の攻撃はヴェルナンの肉体を何度も傷つけている。


出血と痛みにより、ヴェルナンの動きがにぶってきている。


「くそっ!!」


ヴェルナンが悪態あくたいをついた。


彼はなんとか体勢を立て直そうとして、俺から距離を取ろうとするが……


すかさず俺が、ヴェルナンの思考を読んで、距離を潰す。


「くっ!」


ヴェルナンが歯噛はがみした。


さらにヴェルナンがフェイントをぜた攻撃を放ってきた。


上段と見せかけて、斜め……と見せかけて、突き。


しかし劣勢をなんとかしたいがために放ったくるまぎれのフェイントに過ぎない。


俺はなんなく、そのフェイント攻撃をさばく。


彼は冷や汗をかきながら告げてきた。


「バカな……こんなに強いルーカーが、いるわけがない。いったいお前は何者だ……答えろ!」


「なんてことはない。もと大工だいくのルーカーだよ」


「嘘をつくな! お前のようなルーカーがいるものか。そこらの雑兵ぞうひょうにすら勝てないのがルーカーだぞ!? なのに、お前は、俺を上回うわまわるような実力を有している! こんなことは有り得ない……あってはならないことだ!」


とヴェルナンは、叫ぶように言った。




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