第1章26話:斬り合い

衛兵隊長は肩をすくめる。


「まったくとんでもないことをしでかしたものだ。衛兵を殺すルーカーなど……りにしても即刻、殺処分さつしょぶんで間違いない」


「その点については、全く心配していないぞ」


「ほう、なぜだ?」


「カンタンなことだ。俺たちは生け捕りにはならない。あんたを殺して、このまま逃げおおせるからな」


「はははは! よくよく不可能なことを語るものだ」


と衛兵隊長は笑った。


彼には、自分が負けるわけがないという自信がある。


そして実際に強い。


いくらRTA知識が豊富な俺でも、油断すれば殺されることも有り得る。


「可能か、不可能か、自分の目で確かめてみればいい」


と俺は言った。


「ふむ。そうさせてもらおうか」


と衛兵隊長はロングソードを片手で構えた。


ゲームで何度も見た、右に剣を寝かせるような構えだ。


「ふう……」


と俺は深呼吸をして、集中力を高める。


ショートソードを握って、衛兵隊長と対峙する。


「一応、名乗っておこう。衛兵隊長のヴェルナンだ」


「ロッシュだ」


互いに名乗りあう。


森をざわめかせる風が吹いた。


が、風に巻かれて舞い上がる。


静寂せいじゃくが包み込む。


そして。


戦闘の火蓋ひぶたが切られた。


「ッ!!」


まずヴェルナンが大きく踏み込んでくる。


ここで俺がビビッて後ろに下がったら、そのまま距離を詰めて、一発斬られることになる。


ゆえにうしろには退かず、俺はヴェルナンに立ち向かうように、前に出る。


そしてヴェルナンの袈裟斬けさぎりに、俺の斬撃を衝突させる。


つばぜりあいの状態になる。


「驚いたな。後ろに退かず、向かってくるとは」


ヴェルナンがわずかに目を見開いている。


しかしすぐにヴェルナンは、元の表情を取り戻す。


「なら――――」


ヴェルナンはバックステップで退いた。


(さっそく使ってきたか!)


ヴェルナンがバックステップをしたら、その直後に、突き攻撃を放ってくる。


「バックステップからの突き」というのがヴェルナンの攻撃パターンの一つだ。


初手で使ってくれるとはありがたい。


なぜなら、この攻撃の対処法を、俺は頭と身体に叩き込んでいるからな。


こちらのカウンターをぶちこんでやる。


「ハァッ!!」


ヴェルナンがバックステップのあと、ロングソードによる突きを放ってきた。


俺は、その刺突を完璧に見切り……


カウンターの斬撃をヴェルナンの左横腹ひだりよこばらに浴びせながら、彼とすれ違うように走り抜けた。


「ぐっ!?」


横腹よこばらをえぐられたヴェルナンが顔をゆがめる。


斬られた部位を手で押さえている。


俺はフンと鼻を鳴らしてから、言った。


「まずは一発だ」


「お前……ッ」


ヴェルナンから余裕の表情が消えた。


「……どうやら、あなどっていたようだ。なるほど偉そうな口を叩くだけはある」


そして強い戦意と殺気を俺に向けながら、ヴェルナンは次のように言った。


「ここからは、俺も本気でいかせてもらう」


それに対して俺は、肩をすくめて、挑発するように答える。


「そうか。まあ、あんたが本気になったところで、俺には一切いっさい通用つうようしないがな」


「……」


俺のセリフにヴェルナンが顔をしかめる。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る