第1章7話:階級

俺は答える。


「そんなわけないだろ。これから討伐しようとしているのに」


「まあ、それはそうよね」


ラミアリスの中での疑いが薄れたようだ。


結構、単純な性格をしているようである。


「ところであんた、戦いの経験はあるか?」


と、俺は服のすそを雑巾ぞうきんみたいにしぼりながら、尋ねた。


れた服からは水がボタボタとしぼりおちる。


しっかり水気みずけを切っておく。


ラミアリスが答えた。


「一応、兵士へいし見習みならいだったからね。成人式で、ルーカーの烙印らくいんを押されちゃったけど」


「……そうか」


と俺は静かにあいづちを打つ。


ラミアリスが聞いてきた。


「あなたのほうはどうなのよ? というか、あなた、明らかに18歳じゃないでしょ? なんでいまさらルーカーになったわけ?」


「俺は37歳だ。……スキルテイカーって知ってるか?」


「聞いたことあるわね。たしかユニークスキルを奪うっていう」


「ああ。俺はそいつに、ユニークスキルを奪われた。それでルーカーになったんだ」


「え!? ユニークスキルを奪われるとルーカーになるの!?」


ラミアリスが驚愕きょうがくの声を上げた。


俺はうなずく。


「ああ。ユニークスキルを奪われて、無能力者むのうりょくしゃになった。だからルーカーってわけだ」


「ひどすぎるわね。被害者なのに」


とラミアリスが同情的どうじょうてきな目を向けてきた。


たしかにひどい話だ。


「じゃあ、いまのあなたの階級印かいきゅういんは『じゅう』なのね」


「そうだ。元の階級は六だったが……今は十だ。俺の階級印を確認してみれば、十の文字が見えるぞ」


18歳を迎えたすべての人間には、この世界を管理する精霊によって、魂に階級印が刻まれる。


階級印は、その人間の「階級」をあらわすもの。


身分と言い換えてもいい。


階級印によって、この世界での身分が決まるため、極めて重要なものとして認識されている。


ちなみに階級は十段階じゅうだんかいがあり、たとえば第三階級だいさんかいきゅうの場合は「三」を意味する印が刻まれる。


階級は一が最高であり、十が最低だ。


そしてルーカーは……もちろん最下位さいかいをあらわす第十階級だいじゅうかいきゅうだ。


ルーカーには「十」を意味する階級印が、その魂に呪いのごとく刻まれている。


(このゲーム世界の恐ろしいところは、誰でも他人の階級印を確認できてしまうところなんだよな……)


その人間に刻まれた階級印は『階級判定魔法かいきゅうはんていまほう』によって確認することが可能だ。


この魔法は、誰でも使用することができる。


つまり互いに階級印を確認しあうことが可能というわけだ。


たとえば俺が「ルーカーじゃない」と言い張っても、階級判定魔法を使われたら、一発でウソだとバレる。


俺の魂に刻まれた「十」の階級印が、無能力者であることを示すからだ。


「たしかに……あなたの階級印は、十を示しているようね」


と、ラミアリスが告げた。


俺に対して階級判定魔法を使ったらしい。


俺も、ラミアリスに対して階級判定魔法を使ってみる。


ラミアリスの頭のうえに「十」を意味する階級印が浮かんだ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る