第三十九話 頂点に向けての更なる一歩
「まもなく、終点の東京に到着です」
午後十二時四十七分、新幹線内に車掌のアナウンスが流れると、窓際の席で眠りに就いていた颯太はゆっくりと目を開ける。
窓に視線を移すと、ビルが立ち並び、車が道路を行き交う光景が颯太の目に映る。
まさに都会という景色を目に映し、颯太の眼光が僅かに鋭くなる。
「着いたか、東京に……」
颯太が重みのある声で呟いてからすぐ、車掌が乗り換え列車のアナウンスを始める。
列車は徐々に減速し、東京駅の新幹線ホームを目指す。
颯太の左隣の席に着いている拓郎はゆっくりと目を開ける。そして、右隣の席に着いている颯太に視線を向け、言葉を掛ける。
「全国の舞台、私は初めてなんです。去年はベンチ入りすら叶わなかった。ですが今年、それが叶った。ベンチ入りという目標は達成することはできた。次の目標は、一回戦突破。そして、その目標を達成することができたら……」
拓郎はその先の言葉を発することなく、まっすぐ視線を颯太に送る。
颯太は拓郎が発しようとした言葉を理解すると、小さく頷く。
「頂点に向けて、突き進みましょう……!」
微かな笑みを浮かべた拓郎が力強さを感じられる声で、颯太に言葉を掛ける。
颯太は力強さの中にやさしさが伝わる眼差しで拓郎を見つめる。
そして、ゆっくりと頷く。
「はい……!」
颯太の言葉からすぐ、通路を挟んだ席に着いている淳伍がゆっくりと目を開け、腕組みを解く。
そして、視線を颯太に送る。
淳伍と視線が合った颯太だが、特に気にすることなく拓郎と談笑する。
その中で、淳伍の視線の意味を考える。しかし、その答えが導き出せないまま、列車は東京駅の新幹線ホームに入った。
「ご乗車、ありがとうございました。終点の東京に到着です」
車掌のアナウンスからすぐ、列車のドアがゆっくりと開く。
颯太達は席に着いたまま、通路にできた長い列を眺める。
乗客の降車がある程度済んだことを確認すると、淳伍が一番に腰を上げる。
続けてコーチ、選手という順番で席を立つ。
淳伍は車内を見渡すようにコーチと選手に視線を送ると、力強く一言発する。
「行くぞ!」
車内に淳伍の声が響くとコーチ、選手が一斉に頷く。
「はい!」
そして声を揃えると、淳伍の右隣の席に着いていた渉から車両を降りる。
首脳陣全員が降車すると、雄平から選手が車両を出る。
再びできた長い列を眺めながら、颯太は台府銀行の選手の降車を待つ。
しばらくし、拓郎が列に並ぶ。列が流れ、目の前の通路にスペースができると、颯太は列に並ぶ。
颯太が最後尾の選手となった。
列は進み、颯太は出口の目の前まで進む。すると、颯太はそこで一度立ち止まり、一つ深呼吸する。
そして目前に広がる景色を見つめ、颯太は呟く。
「どんな戦いが待っているんだろう……」
その言葉からすぐ口元を緩めると、右足からゆっくりと東京駅のホームに降り立った。
午後三時四十二分、颯太達は宿舎となるホテルに到着した。
淳伍からフロントでチェックインを済ませ、ロビーに赴く。
颯太は最後にチェックインを済ませ、ロビーに向かって歩く。
全員がロビーに集まったことを確認し、淳伍が口を開く。
「明日、我々は籠崎工業さんとの一回戦に臨む。籠崎工業さんは打線が強力なチームだ。だが、それに臆することはない。我々は強力な守備で対抗する。点を奪われなければ負けない。強力な打線を守備で封じ、点を奪う。明日はその戦い方で臨む。いいな?」
淳伍がコーチ、選手を見渡す。
颯太達は淳伍に力強い眼差しを見つめ、声を揃える。
「はい!」
その後、淳伍が翌日の集合時間などを伝え、この日は解散となった。
颯太はエレベーターの前に立っている淳伍達の姿をしばらく眺め、ロビーの椅子に腰掛ける。
「ふぅ……」と一つ息をついた颯太は、視線を自身のバットケースに向ける。
気づくと、バットケースのファスナーを開けていた。
颯太の目には、赤褐色の木材が映る。
颯太は右手で木材を握り、ゆっくりと引き抜く。
すると颯太が練習で使用し、史也と寛人が興味を持った木製バットが一本、姿を現す。
颯太が木製バットのヘッド部分を眺めていると、頭の中に、ある人物の姿が映し出される。
「悟……」
颯太がバットケースに携える木製バットの製造に携わった悟の名前をポツリと呟くと、目を閉じる。
颯太の瞼の裏には、笑顔を浮かべる悟の姿が映し出される。
それからすぐ、悟の声が颯太の脳内で流れる。
「応援しているからな」
颯太は自身の脳内で流れた悟の声を聞き、目を閉じたまま小さく頷くと、言葉を発する。
「ありがとう……全力を振り絞ってくるよ……!」
言葉を発してからしばらくして颯太はゆっくりと目を開け、正面に映るテレビ画面に視線を向ける。
「見守っててくれよ……!」
颯太が悟に言葉を贈ると、ホテルの入口の自動ドアが開く。
すると、二十人以上の男性が自動ドアをくぐり、フロントに赴く。
颯太は彼らの姿を見つめ、何かを察する。
「もしかして……」
一瞬腰を上げそうになった颯太の目には、とある社名が青字で記された、白色のバッグが映っていた。
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