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「お兄ちゃん、幽霊屋敷って知ってる?」

 唐突な問いかけに、侑斗ゆうとは思わず目を瞬かせた。

「ああ、遊園地にあるやつ?」

「違うよ、それはお化け屋敷でしょ。幽霊屋敷。この近くにね、あるんだよ。幽霊屋敷」

 とっておきの秘密を教えてあげよう、と言わんばかりの顔で声を潜める少年とは、つい先ほど知り合ったばかりだ。

 バイトからの帰宅途中、夕立から逃れるために逃げ込んだファストフード店で、少年が落とした帽子を拾ってやった。礼儀正しくお礼を述べて帽子を受け取った少年は、注文品が揃うまでの暇つぶしとばかりに、侑斗相手に他愛もない世間話を始めたのだ。

 その帽子が大のお気に入りであること、大好きな祖母に買ってもらったばかりであることから始まって、いつの間にか話題は夏につきものの怪談へと横滑りしていた。

「郵便局の先に小さい公園があるでしょ? その斜め向かいに、ものすごく古いおうちがあるんだ。松の木がある、大きなお屋敷」

 公園の斜め向かい。松の屋敷。その単語だけでピンときてしまったのは、侑斗がこちらに越してきて一年ほど経ち、周辺に詳しくなったからだけではない。

「その『松のお屋敷』にはね、幽霊が出るんだって! おばあちゃんが言ってたんだ」

 そう耳打ちされて、ひとまず「そうなんだ」と相槌を打つ。

「えっと、その幽霊って……」

 詳細を尋ねようとしたところで、番号札37番を呼ぶ声が響き渡り、少年は「じゃあね!」と手を振って受取カウンターへと走って行った。

 追いかけて詳細を尋ねるのも気が引けて、自身の注文番号の印刷されたレシートを握りしめる。

 侑斗の注文品が揃うまでは、まだまだ時間がかかりそうだった。

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