第3話 訓練 前編

「なんだ、思ってたより余裕じゃないか」

五周ほど走り終えた時、僕はそう思えた。

しかしそれが浅はかな考えだったと後悔する。

七周走り終わったときには体に違和感を覚え始め

十周目に差し掛かった時には、目に見えてペースが落ちてきた。のどから血の味がし、頭に霧がかかったかのように調子が悪くなっていく。

周りをみてみると皆、脇に手を当てて痛そうにしたり、今にも転びそうな奴もいた。

すると隣にレイがやってきた。つらそうにはしているが、まだ他のやつよりは余裕があるようだ。


ーーなんだこいつ?

  急に隣にきて

レイをみると目が合った。

するとレイが「······ふっ」鼻で笑うと僕の少し前を走り始めた


「はぁ?」

僕はすぐさま追い抜かすと後ろを見て小馬鹿にした感じで「ぷっ」と笑ってやる。

その瞬間負けられない真の漢による戦いが始まった。

僕がペースを上げると、こいつもペースを上げ、

こいつがペースを上げると僕もペースを上げるといういたちごっこだった。

二十三周目、


ーーあれは···


前をみると今にも転びそうなやつがいた。

僕とレイはずっと先頭を走っている。

つまりそういうことだ

僕はすぐさま抜かす。

レイをみると息が完全にに上がっていて、今にも倒れそうだった。

「強がるなよ、そろそろリタイヤしたらどうだ?」

「まだまだ余裕だぜ、あと十周は行けるな」

「お前こそリタイヤしたらどうだ?」

「愚問だな、僕はあと十五周は余裕でいけるね」

僕はそう言い、走るペースを上げる。

正直僕はもう限界が近い、頭はほとんど動いてないし、足も多分一度止まるともう走れないだろう。

お互いが限界を感じつつも、三十周目に入る。僕らは同時にスパートをかけた。

お互い死ぬ気で腕を振り、地面を蹴った。

あと100m

教官がゴールで時計を持って待っている

今のところ、少しレイが先行している

あと50m

僕とレイの差は縮まらない

あと10m

「俺の勝ちだ!」

レイは勝利を確信した瞬間、僕は体を沈ませ異様なほどの前傾姿勢を取り、再度加速した、一瞬にしてレイと並び、すぐさまレイを置いていく。


ーーあぁ… 最高だ!

身体中にアドレナリンが駆け巡りで脳が勝利でしか、分泌しないであろう成分を分泌する。

僕とレイは地面にそのまま倒れ込む。

教官が僕らのタイムを言い放つ

「シロト=ウォッカ、記録3時間23分51.03秒!!」

「レイ=ライトラム、記録3時間23分51.63秒!!」

わずか0.6秒

このわずかな差で僕はレイに勝った。

「ふ、ふふ、アハハハ!!」

笑いが止まらない

「僕の勝ちだ!」

僕は満面の笑みでレイに言う

「あ〜、もうクソ!!最悪だ!」

レイは悪態をつきながらも笑顔で言う

僕らは体を起こし友情の握手をする

「僕の名前はシロト=ウォッカ

 シロと呼んでくれ」

「俺はレイ=ライトラム

 レイとでも呼んでくれ」

僕らはもう一度握手をすると笑いながら地面に転がった。


この日僕は戦友とも心友ともいえる仲間ができた。





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