話せる魔物
カミシモ峠
本文
「人語を話す魔物?」
「ああ、最近北の森で目撃されてるらしい。白い饅頭のような見た目らしい」
「へえ、不思議な魔物もいるんですね」
ギルドに隣接した酒場の中。昼にしては混雑している。
「気をつけろよ、やつは油断した所を捕食してくるって話だ。……特にお前だぞ」
「え、僕?」
「そうだ。今度一人で北の森に行くんだろ。お前は魔物に対して詰めが甘い所がある。食われないようにするんだ」
「そんなことは……はい、気をつけます」
冒険者にしては幼いと言っても過言でない容貌の少年は、禿頭の男に睨まれ言葉を変える。
「ったく、人間の命は一つだけだからな」
「はい」
二人はその後も食事を楽しんだ。
後日、少年は北の森で依頼をこなしていた。
討伐対象の魔物は森の奥に住処を作っているという話だったので、草を掻き分け彼は進んでいく。
「ごめんね、村の人達のためだから」
剣で魔物の首を掻っ切る。
「これで最後かな」
住処を出ると木漏れ日が差している。まだ昼時のようだ。
……ケテ
少年は予め付けておいた印に沿って帰る。北の森は道に迷いやすく、行方不明者が多いことで有名だ。
……ケテ……タ……
少年はふと違和感を感じるが、無視して進む。彼は過去ここで脇道に逸れた結果、危うく森の養分になりかけてから、真っ直ぐ帰ることにしている。
……タス……ケテ……タス……
少年は違和感を振り切って、
……タスケテ……タスケテ……
「ああもう!誰かいるんですか?迷子ですか?」
帰ることが出来なかった。
微かな声を頼りに森の中へ戻っていく。忘れず新たに印を付けながら歩いていくと、開けた場所に出た。
円状になるように木が切り倒されており、不自然さが感じられる。
中央に大木が鎮座している。他の木と比べ、飛び抜けて高く、幅は二メートルほどか。
そしてその大木の目の前に小さな何かがいた。
少年は警戒をしながら近づく。
「君?」
「タスケテ……」
声の主は魔物だった。
少年は即座に腰の剣に手をかける。
魔物は三十センチほどの大きさで、白く丸っこい形状をしている。饅頭に近い。
禿頭の男から聞いた情報と一致している。話通りならこいつは人を食うはずだ。
少年が今にも切ろうとした時、魔物は目に涙をうかべる。
そして、
「タスケテ、タスケテ」
と、まるで懇願するかのように語りかけてくる。
一瞬少年の手が止まった。
魔物はぷるぷると震えている。
「ん?血の臭いがしない」
人を食っていれば必ず血の臭いがするはずだが、この魔物からは目立って臭いがしない。
どういうことだ?と少年は魔物に手を伸ばした瞬間、
「あっ、ちょっと、待って!」
少年の手から逃れるように、魔物は素早く森の奥へ駆けていく。
後を追う。小さくすばしっこいため、草に隠れて見失いそうになる。が、何とか再び魔物と相対することが出来た。
「追い詰めたぞ……ってなんだこれ」
そこには丸太で作られた小屋が建っている。所々丸太が傷んでいるが、まだ使われている形跡が確認できる。
魔物が小屋の中に飛び込む。
少年は立ち止まって考えた後、ゆっくりと中に入る。
外からでは分からなかったが、かなり広い小屋のようだ。何部屋か存在する。
魔物が右手の部屋に入ったのを確認し、後に続く。
部屋の中は埃っぽい。あまり手入れはされていないようだ。
「どこに行ったの?」
部屋を見渡すが日が当たらず暗いためよく見えない。
「誰?」
暗がりから女の人の声がした。
「君こそ誰だ?僕は冒険者だ。この部屋に魔物が入ったのを見て……」
少年の言葉は最後まで続かなかった。
「逃げて!」
女が叫ぶのと同時、暗がりから何かが飛び出す音が少年の耳に届く。
彼の視界が暗転する。
「なあ、知ってるか?人語を話す魔物の最新情報」
「知らないな。何かあったのか」
「ああ、どうやらその魔物は一匹じゃなくて群れで生息しているらしい。そして群れの中で人間をおびき寄せる係と襲う係で分かれるらしい。だからおびき寄せる係からは血の臭いがしにくいんだと」
「へえ、随分詳細な情報が出てきたな」
「先日、ある冒険者が魔物の住処を特定して攻略したらしい。それで分かったんだ」
「ああ、あの北の森の!」
「そうそう。丸太小屋の中から人骨がごろごろ出てきたらしい。町娘や冒険者の遺品とか色々出てきたって聞いたぞ」
「ひえ、恐ろしい。俺はそんなのごめんだぜ」
「まったくだ」
話せる魔物 カミシモ峠 @kami-shimo
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