[1]
「納得できません」
「まだ言っているのか……?」
第一高校入学式の日、だが、まだ開会二時間前の早朝。
新生活とそれがもたらす未来予想図に胸
その入学式の会場となる講堂を前にして、真新しい制服に身を包んだ一組の男女が何やら言い争っていた。
同じ新入生、だがその制服は
スカートとスラックスの違い、男女の違い、ではない。
女子生徒の胸には八枚の花弁をデザインした第一高校のエンブレム。
男子生徒のブレザーには、それが無い。
「
本来ならばわたしではなく、お兄様が新入生総代を務めるべきですのに!」
「お前が
激しい口調で
兄妹だとするならば。
似ていない兄妹だった。
妹の方は人の目を
一方で兄の方は、ピンと
「そんな
兄の弱気な発言を妹が厳しく
「深雪!」
それ以上に強い口調で名前を呼ばれて、深雪はハッとした顔で口を閉ざした。
「分かっているだろ? それは口にしても仕方のないことなんだ」
「……申し訳ございません」
「深雪……」
「……お前の気持ちは
「
「噓じゃない」
「噓です。お兄様はいつも、わたしのことを
「噓じゃないって。
でも、お前が俺のことを考えてくれているように、俺もお前のことを思っているんだ」
「お兄様……そんな、『想っている』だなんて……」
(……あれっ?)
何かしら無視し得ない
「お前が答辞を辞退しても、俺が代わりに選ばれることは絶対に無い。この
本当は、分かっているんだろ?
「それは……」
「それにな、深雪。
お前は
「お兄様はダメ兄貴なんかじゃありません!
……ですが、分かりました。
「謝ることでもないし、我侭だなんて思ってないさ」
「それでは、行って参ります。
……見ていてくださいね、お兄様」
「ああ、行っておいで。本番を楽しみにしているから」
はい、では、と
(さて……俺はこれからどうすればいいんだろ?)
総代を
◇ ◇ ◇
内部レイアウトが機械可変式の講堂
入場が始まるまでの待ち時間、少年は
学校施設を利用する
来訪者の為のオープンカフェも、混乱を
雨じゃなくて良かった、と
この中庭は準備棟から講堂へ通じる近道のようだ。
式の運営に
通り過ぎて行ったその背中から、
──あの子、ウィードじゃない?
──こんなに早くから……補欠なのに、張り切っちゃって
──
聞きたくもない会話が、少年の耳に流れ着く。
ウィードとは、二科生徒を指す言葉だ。
緑色のブレザーの左胸に八枚花弁を持つ生徒をそのエンブレムの
この学校の定員は一学年二百名。
その内百名が、第二科所属の生徒として入学する。
国立
国から予算が与えられている代わりに、一定の成果が義務付けられている。
この学校のノルマは、魔法科大学、魔法技能専門高等訓練機関に、毎年百名以上の卒業生を供給すること。
残念ながら、魔法教育には事故が付き物だ。実習で、実験で、魔法の失敗は容易に「チョッとした」では済まされない事故へ直結する。生徒たちはその危険性を知りながらも、
幸いノウハウの
だが魔法の才能は、心理的要因により容易にスポイルされてしまう。
事故のショックで魔法を使えなくなった生徒が、毎年少なからず退学していく。
その
彼らは学校に
独力で学び、自力で結果を出す。
それができなければ、
魔法科高校の卒業資格は与えられず、魔法科大学には進学できない。
魔法を教えられる者が
二科生を「ウィード」と呼ぶことは、建前としては禁止されている。
だがそれは、半ば公然たる
それは、少年も同じだった。
だから、わざわざ聞こえよがしに思い知らせてくれる必要は無い。そんなことは百も承知で、この学校に入ったのだ。
本当に余計なお世話だ、と思いながら、少年は
◇ ◇ ◇
開いていた端末に、時計が表示された。
読書に没頭していた意識が、現実に
入学式まで、あと三十分。
「新入生ですね? 開場の時間ですよ」
愛用の書籍サイトからログアウトし、端末を閉じてベンチから立ち上ろうとしたちょうどその時、頭上から声が降って来た。
まず目に付いたのは制服のスカート。それから、
普及型より
CAD──術式補助演算機(Casting Assistant Device)。
デバイス、アシスタンスとも呼ばれている。
この国ではホウキ(法機)という呼称も使われる。
一単語、あるいは一文節で魔法を使い分ける呪文は、今のところ開発されていない。呪符や魔法陣を併用したとしても、短くて十秒前後、ものによっては一分以上の
CADが無ければ魔法を発動できないというわけではないが、魔法発動を
ただし、CADがあれば
CADは起動式を提供するだけであり、魔法を発動するのは魔法技能師自身の能力。
つまり、魔法を使えない者には無用の長物であり、CADを所持するのはほぼ百パーセント、
そして少年の
「ありがとうございます。すぐに行きます」
相手の左胸には当然、八枚花弁のエンブレム。
ブレザーを押し上げる胸のふくらみは、少年の
自分の左胸を
そんな
だが、
生徒会役員を務めるような優等生と、積極的に関わり合いになりたいとは思えなかった。
「感心ですね、スクリーン型ですか」
だが、相手はそう思わなかったようだ。少年の手で三つ折りに
少年はここに至り、ようやく相手の顔を見た。
相手の顔の位置は、ベンチから立ち上がった少年より、二十センチは低い。
少年の身長が一七五センチだから、女性としても小柄な方だろう。
目線が、彼が二科生徒であることを確認するには、ちょうどいい高さ。
だがその
「当校では仮想型ディスプレイ端末の持込を認めていません。ですが残念なことに、仮想型を使用する生徒が大勢います。
でもあなたは、入学前からスクリーン型を使っているんですね」
「仮想型は読書に不向きですので」
彼の端末が年季の入ったものであることくらい
少年の言い訳じみた返事は、余り素っ気ないと、自分よりも妹の不利益になると考えた結果だ。新入生総代を務める彼の妹は間違いなく、生徒会に選ばれるだろうから。
そんな打算の産物に、その上級生は一層感心の色を
「動画ではなく読書ですか。ますます
私も映像資料より書籍資料が好きな方だから、何だか
確かにバーチャルコンテンツの方がテキストコンテンツより好まれる時代だが、読書を好む人間がそこまで
どうやらこの上級生は、珍しいくらい
「あっ、申し遅れました。私は第一高校の生徒会長を務めています、七草
よろしくね」
最後にウインクが添えられていても不思議のない口調だった。美少女なルックス、
それなのに、彼女の自己
(
魔法師としての資質に、家系が大きな意味を持つ。
そしてこの国において、魔法に優れた血を持つ家は、慣例的に数字を含む
そんな苦みを
「
「司波達也くん……そう、あなたが、あの司波くんね……」
目を丸くして
まあ、どうせ新入生総代、主席入学の司波
そう思い、達也は礼儀正しい
「先生方の間では、あなたの
それは、ここまで出来の違う兄妹も
だが不思議と、そういうネガティブな感情は伝わってこなかった。含み笑いに、
真由美の笑顔からは、親しみを込めたポジティブなイメージしか伝わってこない。
「入学試験、七教科平均、百点満点中九十六点。
特に圧巻だったのは魔法理論と魔法工学。合格者の平均点が七十点に満たないのに、両教科とも小論文を含めて文句なしの満点。
前代未聞の高得点だって」
手放しの
「ペーパーテストの成績です。情報システムの中だけの話ですよ」
苦い愛想笑いを
その意味を生徒会長が知らないはずは無い。
しかし
縦に、ではなく、左右に。
「そんな
私ってこう見えて、理論系も結構上の方なんだけどね。入学試験と同じ問題を出されても、
「そろそろ時間ですので……失礼します」
達也は、まだ何か話したそうにしている真由美にそう告げて、返事を待たずに背を向けた。
真由美の笑顔を、このまま彼女と会話し続けることを、彼は心の
自分が何を恐れているのか、自覚しないままに。
◇ ◇ ◇
生徒会長と話しこんでいた
座席の指定は無いから、最前列に座ろうが最後列に座ろうが真ん中に座ろうが
今でも、学校によっては入学式前にクラス分けを発表してクラス別に並ばせる古風なところもあるが、この学校はIDカード交付時にクラスが判明する仕組になっている。
従って、クラス別に自然に分かれる、ということもない。
だが、新入生の分布には、明らかに規則性があった。
前半分が
後ろ半分が
同じ新一年生、同じく
(最も差別
それも一種の生きる
あえて逆らうつもりもなかったので、達也は後ろ三分の一辺りの中央に近い空き席を適当に見つくろって座った。
あと二十分。
通信制限の
あの妹が、こんな直前にじたばたするはずがない。
結局、何もすることが無くなった達也は、クッションの効いていない
「あの、お
その直後、声が
目を開けて確認すると、やはり、自分に掛けられた声。
声で分かるとおりの、女子生徒だ。
「どうぞ」
まだ空席は少なくないのに
そう考えて、達也は愛想よく
ありがとうございます、と頭を下げて
その横に次々と三人の少女が腰を下ろす。
なるほど、と達也は納得した。
どうやら四人一続きで座れる場所を探していたらしい。
友人、なのだろうが、この難関学校に四人も同時に合格して、その全員が二科生というのも
「あの……」
一体なんだろうか?
間違いなく知り合いではないし、
自分で言うのも何だが、達也は姿勢が良い方だ。
クレームを受けるようなことは、何もしていないはずだが──
「私、
と、首を
多分、無理をしているのだろう、と達也は判断した。
「
そう思ってなるべく
メガネをかけた少女は、今の時代、かなり
二十一世紀中葉から視力
余程重度の先天性視力異常でもない限り、視力矯正具は必要ないし、視力矯正が必要な場合でも人体に無害で年単位の連続装着が可能なコンタクトレンズが普及している。
わざわざメガネを使う理由があるとすれば、単なる
(
少し
霊子放射光過敏症は、見え過ぎ病とも呼ばれている「体質」のことで、意図せずに霊子放射光が見える、意識して霊子放射光を見えないようにすることができない、一種の知覚
感覚が、
通常、魔法に用いられるのは
ところが霊子放射光過敏症者は、先天的に霊子放射光──
霊子放射光は、それを見ている者の情動に
これを予防する
実は、
だが、常時メガネで霊子放射光を
達也には、
──彼女の前では、いつも以上に注意深い行動を
「あたしは
「こちらこそ」
達也の
ただそれは、タイミングのいいリリーフでもあった。
達也の視線は知らず美月を
「でも面白い
こちらは友人と違って、
ショートの
「何が?」
「だってさ、シバにシバタにチバでしょ? 何だか
「……なるほど」
確かにチョッと違うが、言いたいことは分かる。
(それにしても、千葉ね……また
彼がそんなことを考えている
エリカの向こう側に座っている残り
「四人は、同じ中学?」
エリカの答えは、意外なものだった。
「違うよ、全員、さっき初対面」
意表をつかれた
「場所が分からなくてさ、案内板と
「……案内板?」
それはおかしいだろう、と達也は思った。入学式のデータは会場の場所も
「あたしたち、三人とも端末持って来てなくて」
「だって、仮想型は禁止だって入学案内に書いてあるんだもん」
「せっかく
「あたしは単純に忘れたんだけどね」
「そういうことか……」
本当は、納得したわけではなかった。自分の入学式なのだから、会場の場所くらい確認しておけよ、というのが
無益な波風を立てる必要は無い──そう考えて、達也は自重した。
◇ ◇ ◇
この程度のことで妹が
「
その態度は堂々としていながら
深雪の身辺は、明日から、さぞかし
それもまた、いつものことだ。
何のかのと言いながら、世間
そして今は、
「
「E組だ」
達也の答えに
「やたっ! 同じクラスね」
「私も同じクラスです」
アクションを
「あたし、F組」
「あたしはG組だぁ」
だからといって、残る二人のあっさりした反応が
この学校は一学年八クラス、一クラス二十五人。
こういうところは平等だ。
もっとも、開花を期待されていない
別クラスとなった女子生徒二人とは、ここで自然と別行動となった。二人とも、自分のホームルームへ向かうようだ。A─D組とE─H組は使用する階段からして違うが、それでテンションを下げた様子はない。
二科生徒の全員が
チョッと背伸びした名門校に受かっちゃった、という
この学校は、
あの二人は多分、それぞれのクラスで一年間を共有する友人を探しに行ったのだろう。
「どうする? あたしらもホームルームへ行ってみる?」
エリカが達也の顔を見上げてそう
古い伝統を守り続けている一部の学校を除いて、今の高校に担任教師という制度は無い。
事務
学校用端末が一人一台体制になったのは、何十年も前のことだ。
個別指導も、実技の指導でなければ、余程のことでない限り情報端末が使用される。
それ以上のケアが必要なら、専門資格を持つ複数多分野のカウンセラーが学校には必ず配属されている。
では
それに、自分用の決まった端末があった方が、何かと利便性が高いという理由もある。
どんな背景があるにせよ、一つの部屋で過ごす時間が長ければ、自然と交流も深まる。
担任制度が無くなることで、クラスメイトの結びつきは、むしろ強くなる
何はともあれ、新しい友人を作る
「悪い。妹と待ち合わせているんだ」
達也は諸手続きが終わったらすぐ、
「へぇ……
エリカの感想とも質問とも取れる
幸い、無理に答える必要もなかった。
「妹さんってもしかして……新入生総代の司波深雪さんですか?」
今度は
「えっ、そうなの? じゃあ、
エリカがそう
「よく
「ふーん……やっぱりそういうのって、複雑なもんなの?」
優等生な妹と同じ学年、複雑でないはずはなかったが、エリカも悪気があって訊いてきているのではない。達也は笑ってその質問を流した。
「それにしてもよく分かったね。司波なんてそんなに
「いやいや、十分
ただし、その色合いは
「
「似てるかな?」
その美月の言葉に、達也は首を
というか、信じられない。
妹を見ていると、天は
中学生時代、毎日のようにラブレター(というより、あれはファンレターだと達也は見ている)を
一部とはいえ同じ遺伝子を共有しているはずだが、達也が血のつながりを疑ったことも一度や二度ではないのだ。
「そう言われれば……うん、似てる似てる。
ところがエリカは、達也の
「イケメンって、
エリカの言うことは多分に感覚的で少し分かりにくかったが、やはり顔が似ているということではないらしい。達也はそう
「そうじゃなくってさ、うーん、何て言えばいいのか……」
エリカ自身も、
美月の助け船がなければ、そのまましばらく
「お二人のオーラは、
「そう! オーラよ、オーラ」
今度は達也が苦笑する番だった。
「
お調子者ぉ? ヒドーイ、という
「それにしても
……本当に、目が良いんだね」
それより、しみじみとした口調で
「えっ?
「そういう意味じゃないよ。それに、柴田さんのメガネには度が入っていないだろ?」
んっ? という顔で、エリカが美月のメガネをのぞき込んだ。
そのレンズの向こう側で、美月が目を見開いて、固まっていた。
ちょうど、時間切れだった。多分、この場はそれで「結果オーライ」だった。
◇ ◇ ◇
「お兄様、お待たせ
講堂の出口に近い
少し早いような気もしたが、妹の気質を考えれば
社交性に欠ける訳ではないが、お世辞やお愛想を
それを考えれば、チヤホヤされることに多少
予定されていた待ち人は、背後に予定外の同行者を
「こんにちは、
愛想に
だが彼の妹は、生徒会長に対する兄の
「お兄様、その方たちは……?」
「こちらが
同じクラスなんだ」
「そうですか……
やれやれ、と達也は思った。
どうやら、式が終わった直後からずっと、歯の
「そんなわけないだろ、深雪。お前を待っている間、話をしていただけだって。
そういう言い方は
彼にとっては妹のこんな
「はじめまして、柴田さん、千葉さん。
わたしも新入生ですので、お兄様同様、よろしくお願いしますね」
「
「よろしく。あたしのことはエリカでいいわ。
「ええ、どうぞ。
三人の少女が、改めて自己紹介を交わした。
深雪と美月の
しかし、エリカの親しげな物言いに、
深雪は
「あはっ、深雪って
「貴女は見た目通りの、開放的な性格なのね。よろしく、エリカ」
深雪の方はお世辞とお愛想にウンザリしていた後でエリカのざっくばらんな態度が余計に好ましかったという事情もあるのだろうが、それ以上に、
「深雪。生徒会の方々の用は済んだのか? まだだったら、適当に時間を
「
達也の質問と提案に対する応えは、異なる相手から返された。
「
深雪さん……と、私も呼ばせてもらってもいいかしら?」
「あっ、はい」
「では深雪さん、
真由美は笑顔で軽く
「しかし会長、それでは予定が……」
「
なおも食い下がる気配を見せる男子生徒を目で制して、真由美は深雪に、そして達也に、意味有りげな
「それでは深雪さん、今日はこれで。
再度会釈して立ち去る真由美。その背後に続く男子生徒が
◇ ◇ ◇
「……さて、帰ろうか」
どうやら入学早々、上級生、しかも生徒会役員の
「すみません、お兄様。わたしの
「お前が謝ることじゃないさ」
表情を
「せっかくですから、お茶でも飲んでいきませんか?」
「いいね、賛成!
代わりに
家族が待っているのではないか、と
それよりも達也には、訊いてみたいことがあった。実にどうでもいいことなのだが、放置できない程度には気になってしまったのである。
「入学式の会場の場所はチェックしていなかったのに、ケーキ屋は知っているのか?」
少し、意地の悪い質問だったかもしれない。
「当然! 大事なことでしょ?」
だがエリカは、
「当然なのか……」
「お兄様、どういたしましょうか?」
しかしどうやら、エリカの暴言(?)にショックを受けているのは、達也だけだったらしい。
深雪も、式場より
「いいんじゃないか。せっかく知り合いになったことだし。同性、同年代の友人はいくらいても多過ぎるということはないだろうから」
とはいっても、同意の回答自体はほとんど
深く考えられたセリフではないので、そこには彼の何気ない本音が表れている。
本音だということがエリカと
「
「妹さん思いなんですね……」
◇ ◇ ◇
エリカに連れて行かれた「ケーキ屋」は、その実「デザートの
平均を大きく上回る広さのこの家は、ほとんど達也と深雪の
自分の部屋に
こんな
リビングで
素材は大きく進歩したが、服のデザインは百年前からほとんど変化していない。
今世紀初頭風の
この妹のファッションはどういう訳か、家の中で
「お兄様、何かお飲み物をご用意しましょうか?」
「そうだね、コーヒーを
「かしこまりました」
キッチンへ向かう
ホーム・オートメーション・ロボット(HAR/ハル)が
そして
機械
友人が遊びに来た時などは、大体HAR任せだ。
しかし
ガリガリと豆を
最も簡単なペーパードリップではあるが、旧式のコーヒーメーカーさえ使わないのは、何かの
一度
何にせよ、深雪の淹れるコーヒーが、達也の好みに一番合っていた。
「お兄様、どうぞ」
サイドテーブルにカップを置き、反対側に回って
テーブルのコーヒーはブラック、手に持つカップの中身はミルク入りだ。
「
賞賛に多言は不要だった。
その一言で、深雪がニッコリと
そして二口目を含む兄の満足げな顔を
そのままコーヒーを
どちらも、無理に会話を作り出そうとはしない。
相手が、自分の隣にいることが気にならない。
無言の状態が続いて間が悪い思いをする、という経験は、この二人の間では絶えて久しい。
話すことならたくさんある。
だが兄妹は、二人きりの家で、二人で隣り合って、ただ静かにカップを
「──すぐにお夕食のしたくをしますね」
空になったカップを持って、深雪が立ち上がった。妹が
兄妹二人、いつもどおりの、夜が
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