第10話 夜の街の情報屋さん

「結構久しぶりだな」


まあ久しぶりと言っても一月行くか行かないかくらいだろう。


あいも変わらずこの街は賑やかで静まることはない。それぞれの願望や思いが交わりあい、他にはない独特な空気が漂っている。


この空気感は以外と嫌いじゃない。

それぞれの持つ人生の様々な一瞬を共有し見ることの出来るのはとても面白い。


賑やかな繁華街を進み、1回2回と曲がるごとに人の見た目も年齢も変化して行く。


こっちの方はあまり来たことが無いな。


目的地に近づくにつれて、賑やかで華やかな雰囲気から少し落ち着いたお店が増えて来ており、年齢層も少し高めで30代以上の少し落ち着いた印象の人が多い。


例の椿の情報を知っていそうな美雪さんと今日そのお店で会うことになっている。


ビクビクとする心と普段とは違う非日常感から来る興奮を抑えながら目的のバーまで進んで行く。


「ここで合ってるのか?」


もう一度店の名前と、ナビで店を調べるがどうやら間違っていないらしい。

出来ることなら間違っていて欲しかったが、現代技術が発達した昨今にそれを疑うのは無理があるだろう。


店の名前はサイゴンと言い、レンガと木で建てられた店はオシャレで独特の雰囲気があった。

そこまでは良いのだが、看板も立っておらず更には外から覗き込めるような窓も無く中の様子が見えない。


「いやいや、俺まだ19だぞ」

「こんな店絶対浮くだろ」


入った瞬間お客様や店員になんだおめえ的な視線を向けられて、気まずい雰囲気とかマジで嫌なんですけど!

で更に例の美優さんがいない日にはもういたたまれない。


とゆうかそもそも美幸さんとは何者であろうか。

夜の街にも詳しくてアイツの知り合いだから、

若くてウェイ系で悪い奴らみんな友達みたいな人を想像してたけど違うのか?


実はかなり年上で、ガチでそうゆうお店を経営してる側の怖い感じの人だろうか。


一応失礼に当たらないように、送り物用のクッキーを用意して来たがこれだけでは心元なくないように思え、新しく買いに行こうとも思ったが約束の時間は無慈悲にも近づいて来ており書い直す時間もなければ、これ以上うかうかしていれば遅行してしまう。


しゃーない、行くか。


覚悟を決めて店の扉を開くと外観通りの落ち着いた雰囲気で少し進むとレジがあり、通路がそこから続いており1人のいかついサングラスをかけた男の人が立っていた。


目があうやいなや、ニコリと爽やかな笑を浮かべて近寄ってくる。


「いらっしゃいませ、1名様ですか?」


「いや、この店で待ち合わせしてて」


「そうでしたか」

「ちなみ身分証などはお持ちでしょうか?」


「ああ、それなら」


ポケットから財布を取り出して、運転免許証を手渡す。


「ご協力ありがとうございます」


素早く確認を終えるとすぐに返され受け取る。


「ちなみに待ち合わせされている方のお名前をお聞きしてもよろしかったでしょうか」


「美幸さんです」


「ありがとうございます」

「お待ちしておりました天野様、ご案内いたしますのでこちらにどうぞ」


促されるままに後ろをついて行く。


途中に何ヶ所か分かれ道があり個室からは笑い声や談笑が聞こえて来ており来る道中の部屋のほとんどはもう埋まりきっていた。


少しして立ち止まる。


「こちらの部屋でお待ちになっております」

「それではごゆっくりどうぞ」


そう言うと一礼して去って行ってしまった。


とんでも無い所に来てしまったのではないだろうか。


あんなごつい店員?セキュリティがいるのも初めてだし、接客も丁寧でお客の名前も把握してるなんて初めての経験で今すぐに逃げ帰りたいのだがそうはいかないだろう。


すでに俺が来たのはもう襖ごしに聞こえているだろう。

靴を脱いで下駄箱に入れ、扉の前に立ち深呼吸して呼吸と心を落ち着ける。


ここまでしっかりとした店を使う人物だ、多分だが凄い人に違いなく失礼の無いようにしなくては。


必死に面接の時のやり方を思い出し3回ノックする。


「どうぞ」


どっしりとしてそれでいながら華やかさのある女性の声。


「失礼します」


恐る恐る扉を開ける。


「まあ座りな」


「ああ、はい」


いったいどんな化け物が居座っているかと思えばいたのはスタイルのいい若い金髪の女性だった。


彼女は鋭い目つきに金髪の長い髪を揺らし、今では少し珍しい紙タバコを吸いながお酒を飲んでいて、まるで映画のワンシーンのように絵になる。


促されるように掘り炬燵のようになっている席の向かい側に座る。


「まずは自己紹介でもしようか。私の名前は

樋口 美優と言う。こっちじゃよく「ゆき」と呼ばれているからそう呼んで貰って構わない。好きな食べ物はカニ料理で特に鍋で食べるのが好きだ。」


「私の趣味はたくさんの情報を集めることでね、君の通っている大学の色恋沙汰から大学の過去問に夜の街のあれやこれまでなんでも相談に乗るよ」


「すげえ、なんでも知ってるんですね」


「私は何でも知っているとも」


まるで映画の悪役のような笑みを浮かべる。


「君の地元から君の大学での低空飛行な学業の成績に、ついこの間まで色恋の噂が無かったこと、更には女の子にお酒強いアピールしてテキーラで吐いたことまでね」


「いきなり初対面で傷口をえぐり過ぎじゃ無いですか?」


全部ほぼ事実なのが辛い所だ。

来るまでに散々精神的に疲れたのにこれとかもう帰りたい。


「これで私の情報の正確さは担保されただろ?」

「さて盛り上がっ手きた所で君の自己紹介を聞かせて欲しいな」


「何も盛り上がっちゃいねーし、そんだけ知っていれば十分僕のことは理解してますよね!」


「私の集めた情報が真実とは限らない、あなたの口からあなたの情報が聞きたいの」


彼女は不敵で傲慢でなんでも見透かしたように僕を見て口角を上げる。


「素敵な夜にしましょう」




































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