魔力を扱ってみよう!

 ごくりと唾を飲み込んで何を言い出すのか身構える。


 しかし次の瞬間、そんな僕を嘲笑うように彼女は口を開く。


「まあまあそんな身構えなくていいじゃないか。簡単に説明してあげるよ。

 君の死因、自分の魔力が強すぎるせい。

 ここは魂魄世界という魂の中の世界。ちなみに時間は物理世界から隔離されているね。

 転生者。死んだ者が記憶と人格を引き継いで産まれなおすこと。ちなみに他の世界の魂がやってきたのは君が初めてさ。以上!!」


「すんげえ分かりやすい解説。めっちゃ短く纏めたし」


 どんな解説が来るか身構えていたけど、実際にやってきたのはこれ以上なく分かりやすい解説だった。


 まあでもこれくらい端的に説明してくれると、色々と聞きたいこっち側としては助かる。


「じゃあ一つずつ質問してもいいですか?」


「ふふん。いいとも。なんでも聞いてくれたまえ! 赤裸々と全て語ってあげるさっ!」


「すんげえテンション高い。なんでこうなったの……?」


「ふふっ、それはねまともな会話なんて殆どしないのさ。人間と話すなんて稀なことなのさっ!!」


 そう考えるとちょっと寂しいな。時々の会話でテンションが上がる理由も納得だ。


 転生者ということを聞きたいが、それは後回し。今は自分の命に関わることから聞いていくことにしよう。


「魔力ってなんですか? 僕は今、自分の魔力に殺されかけているということですよね?」


「なんだいそんなことか。てっきり知ってるものと思っていたが……君の世界には魔力がないのかっ! なんともまあ不便な世界を生きたものだねぇ!」


 言い方はともかく、魔力というのはあって当然のものらしい。この口ぶりから察するに。


「なら見せたほうが早い。刮目せよ! これが魔力さっ!!」


 次の瞬間、凄まじい風が吹き荒れる。


 め、目の前のファヴニルからすごいオーラ?的なものが見える!!!


 全身から赤紫色の魔力が勢いよく噴き出して立ち昇っている!


「ふふんどうかね? これが魔力だ。魔力は生命の力。全ての生命が持ち得る力さ」


「なるほど……っ! じゃあ他の人もそれくらいの魔力を出せるっていうことですか?」


「ふっ、無知というのは罪だよ。これは私が竜だからできることさ。普通はこんなにも出せないよ」


 ドラゴンってすげえ〜〜!!!って思いながらも、僕はふと疑問に思う。


「……え? だとすると僕の魔力ってどうなるんですか? 僕の魔力は僕自身を危険に晒すほど強いんですよね……?」


「鋭いねえ。君の場合、魔力が人間にしては強すぎる。普通ではありえないほど強いのさ。だから君は今、死にかけている」


 そうだよな。僕が普通だと世の中の赤ちゃんはこんな死の危険を乗り越えないといけないことになる。


「まあそんな暗い顔をするなよ君ぃ。助かる方法はあるよ」


「助かる方法とは……?」


「魔力の制御を覚えることだ。身体の意識を向けてごらん。例えば心臓を強くイメージするんだ」


 心臓に意識を向ける。曖昧だが助かるためには必要なことだ。やってみるしかない。


 深呼吸をして意識を体へ。頭から降っていくように心臓へと意識を向ける。すると……あった。


 熱く、燃える炎のようなものが。


「う、うわっ!?」


 ……って胸が燃えてるーーー!?!?!?


 マジで胸が燃えている!! いや熱いとか服が燃えているとかそういうのではないんだけど、心臓付近から炎が出ているのだ!!


 赤と紫と黒、三種の色の炎が胸で燃え盛っている!!!!


「プッ……ククク、アハハハハハ!! な、なんていうザマなんだい! そ、その驚きよう、いいねえ、お手本通りだ!」


「わ、笑うなー! こんなの誰だって驚くでしょうよ!? つーか何で燃えているの!? オーラとかじゃないの!?」


 ファヴニルの魔力を見て、てっきり僕も何かしらのオーラが出てくるものだと思っていた。


 けれど違う。これはオーラみたいな光ではなく、れっきとした炎だ。


「魔力の認識、魔力の感じ方は人それぞれで異なるよ。私にとっては光みたいなものでも、君に取っては炎のようだと思ったのだろう」


「自分を殺しかねないから炎。そう思うと妙な納得感がある……。で、でもこれをどうすればいいんだ……?」


 今、胸の炎は心臓を基点にしているが、胸を覆い尽くすほど大きい炎になっている。


 そして炎のゆらめきも激しく、キャンプファイヤーのような炎になっている。


 制御……。その言葉からイメージできるのは炎の強弱を決めること。そしてどこを炎で燃やすかということだ。


 先ずは炎を弱めるイメージ。これはガスを閉めるように、火元になる酸素を止めるイメージをしてみよう。


 心臓の基点から供給されている魔力を弱めるっ! 


 おお、段々と火が弱まっていく。ちょっとずつ、ちょっとずつ、っていきなり燃え広がった!?


「うぎゃあああああ!!! し、失敗した!?」


「わ、私を笑い殺す気かい……っ!? そ、そのお手本通りすぎる反応っ! 面白すぎるだろう!?」


「だって燃え広がったんですよ!? む、胸が燃えているんですよ!?」


「まあまあ落ち着くんだ。こういう時は私の体でも見て……」


「そんなことで落ち着けるわけないでしょ!?」


 と言いつつも深呼吸をしてなんとか調子を取り戻す。ファヴニルは不満そうに頬を膨らませていた。


「…………なんだか納得がいかないねえ。まあいいや。ちょっとは慣れたかい?」


「いやいやすぐに慣れるはずないでしょ。でも不思議だなこれ。燃えているようで燃えていないなんて」


 胸の炎は煌々と燃え盛っているが、熱さや痛みは全く感じない。


「まあ良いさ。それよりもだ。君はさっき、魔力を弱めようとしたんじゃないのかい?」


「はい。魔力を弱めたいから魔力を弱めるように調整するのは普通じゃないんですか?」


「線は悪くない。ただ、魔力を弱めるのは高等技術だ。君の場合は弱めるではなく、広める方に意識を割くべきだ」


「弱めるじゃなくて広める……?」


 僕はファヴニルの言葉に首を傾げるのであった。


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