竜血公爵に転生して~自分の魔力で死にかけましたが、どうやら使いこなすと世界最強になれるみたいです~
路紬
プロローグ
努力は必ず報われる? その言葉が、これほど虚しく響くとは思わなかった。
「いい? あんたはいい大学に入って、必ず大手企業に勤めるのよ」
「そうだ。真面目にコツコツとやればお前の人生はきっと豊かになるからな」
普通の一般家庭だった。両親は共働きで一軒家を構えられるくらいの普通の家庭。
僕の意見なんて、誰も聞いてくれなかった。
放課後の校庭で友達とボールを追いかけることも、ゲームの新作に胸を躍らせることも許されなかった。代わりに与えられたのは、びっしりとスケジュールが書き込まれた手帳と、無機質な塾の教室だった。
勉強、勉強、また勉強。朝から晩まで数字と文字が頭の中を埋め尽くす。僕の人生には、それしか存在しない。
高校に上がったある日のことだ。僕が帰宅すると、部屋の棚は空っぽになっていた。大切に集めていた漫画も、クリアしたゲームのパッケージも、何もかもが消えていた。
「お母さん、僕の漫画は?」
僕がそう問いかけると、母は冷たく言い放った。
「そんなもの、あなたには必要ないでしょ」
そんな狭苦しい人生。
進学先は両親に決められ、必ず有名大学に入るよう言われていた。そんな両親の口癖はいつだって。
「学歴が全てなんだ。俺も受験に失敗しなければ今頃役員に……」
「お父さんの言うとおりよ。社会に出れば、有名私立以下の学歴には人権がないの。だから必ず、大学はいいところに行くのよ」
まあこんな感じだ。両親は受験に失敗したらしく、本人たち曰く二流の大学出身。受験にさえ成功すれば、人生はもっと豊かだったらしい。
そして受験の日が過ぎ、受験結果が家に届いたある日。
「なんてことだ!! 第一志望落ちただと!? お前は何をやっているんだ!!!」
「お母さんあれだけあなたに言ったわよね? 勉強頑張りなさいって、勉強すれば人生幸せになるからって!! なのにあなたは二流大学にしか合格していないなんて!!! 私達がどんな思いであなたを育てたのかわかってるの!?」
受験の結果を見てヒステリックに騒ぐ両親。
第一志望だった国公立大学は落ち、代わりに滑り止めで受けた私立大学には受かった。世間一般的には滑り止めで受けた大学も上位なのだけど、この二人にはそんな理屈通用しなかった。
父は怒りで顔を真っ赤にして叫んだ。
「この出来損ないが! 俺の顔に泥を塗りやがって!」
「一体どういうつもりなの! 私達にそんなに恥をかかせたいのかしら!?」
僕はただ黙って俯くしかなかった。言い訳をしても無駄だと、もう悟っていたから。
「俺達の期待を裏切りやがって! まあいい、お前の代わりはいる! お前なんか出ていけ!! あいつに悪影響を及ぼさないためにもな!!」
僕はそう言われて、なす術もなく家を追い出される。両親からの罵声を聞きながら。
「もっと……もっと努力すれば変わってたのかな?」
寒空の下、僕は今までの人生を振り返る。
必死に努力したつもりだった。遊ぶ時間も何もかもを削って、受験のためだけに生きてきた。けれどその結果がこれだ。
現実は残酷で、僕よりも才能がある人間はたくさんいるし、僕みたいな凡人が天才と張り合うには度を超えた努力が必要だ。
だけど、後悔したところで後の祭り。浪人なんて両親が許さないだろう。両親は現役至上主義だ。息子が浪人生なんてあの人達のプライドが許さない。
あの人達は僕のことを見捨てるだろう。きっと優秀な弟に期待し始めるはずだ。弟は何もかも要領良くやるから、例え遊んでいたとしてもあの人達の期待に応えるだろう。
僕も弟のように少しは肩の力を抜いて、好きなことをやるべきだったのかなあ……? 全然分からない。
たくさん努力して、遊ぶ時間も、友達を作る時間も、何もかもを削って、行き着いた先がこれだ。僕の人生、本当に何もない……。
いや、まだ諦めるには早い。これから取り戻していけばいいんだ。幸い、第一志望は落ちたけど、滑り止めで受けた大学はかなりいい成績だったはず。奨学金を使って、独り立ちすれば僕の自由が手に入る!
そうすればやりたいことが沢山できるはずだ。そうだ、ここから取り戻していけばいいんだ! 僕の人生をここから!!
——ギイィィィィィィ!!!!
と激しい音が聞こえた。それを聞いて振り返った時、手遅れだと悟る。
次の瞬間、僕の視界は空の方を向いていた。全身に漂う浮遊感。
「ガッ……!?」
地面に叩きつけられる。全身から熱が抜けていく。血がコンクリートの地面を汚す。
「キャアアアアア!!!」
「おい、誰か救急車!!」
あ、助からないなと思いつつ、周囲の声を聞いてようやく自分の状況を理解する。
僕ははねられたのだ。大型トラックに。即死しなかったのは運が悪かったのか。いっそのこと即死の方が良かったのにとか思ってしまう。
視界がぼやけて、音がどんどん遠くなっていく。死んでいく中、僕はふと思う。
僕の人生何もいいことなかったなと。
こうして僕の一回目の人生は終わりを告げた。
***
「うぇ……?」
目を覚ますと見知らぬ天井が見えた。金のシャンデリアが視界の大半を埋め尽くしている。
病院……? だとしたら豪華すぎるだろう。シャンデリアがある病院とか想像がつかない。
白い毛布に包まれて身体が暖かいということはわかる。けれど、それ以外は全くだ。
とにかく何が起きたのか調べなきゃ……そんな一心で身体を起こそうとするが、身体は起き上がらない。
「……ふぇ?」
さっきも思ったが、僕の声ってこんなにも高かったか? いいやそんなはずはない。この声はまるで幼子のような声だ。
「じ……ジーク様が息を吹き返しましたっ!! こ、これは奇跡ですっ!!」
「なんだと!? それは真か!? 俺によく見せてくれ……!!」
「ほ、本当だわ……。よかった、よかったわねジーク。あなたが生きていて本当に良かったわ」
次々と声が聞こえてきたと思いきや、見慣れない姿をした、見慣れない人達が僕の視界に入ってくる。
厳しい姿をした大男が僕の体を持ち上げる。
そんなに軽くはないぞ僕!? とか思ったが、次の瞬間、鏡に映った自分を見て納得と驚きが同時にやってきた。
「うぇ……? うきゃっ!」
「おお〜〜よしよしジーク。びっくりしたか?」
「元気になってくれて良かったわ。心臓が止まった時はダメかと思ったけど、こうして元気な姿を見せてくれて嬉しいわ」
赤髪の大男と、金髪の女性が僕の側で微笑む。
鏡に映っている僕の姿は信じられないことに赤ん坊の姿だった。
い、一体これはどういうことなんだ!?
***
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