おかえり、かーこちゃん。
クライングフリーマン
おかえり、かーこちゃん。
お父ちゃん、行ってきます。
お母ちゃん、行ってきます。
元々8年も独居だった私。
介護生活は終った。
母に歌を歌って、送ろうと思っていたが、叶わなかった。
誰が反対した訳でもない。
看護師から電話があって、半時間で旅立つなんて、想定外だった。
4キロ先の病院に、電動アシスト自転車のパワーモードで走って10分。
病室に入ると、当直の医師がスタンバイしていた。
確かに、血圧は、低すぎるし、微妙に上がったり下がったり。
そして、10分。酸素マスクは、少しだけ曇った瞬間があった。
それが、最後の「呼吸」だったのだろう。前日と、当日昼に行った時は、少し息苦しそうで、肩で息をしていたが、駆けつけた時は、顔は動いていなかった。
「もうすぐなのか?」と思っていたら、10分後に医師の「終了宣言」が出た。
聴診器で確認、時計を見ながら、「午後5時45分でした。」と告げられたのだ。
不思議と涙は出なかった。涙脆い私なのに。
通夜・告別式は、火葬場の都合で2日延びた。
通夜・告別式でも、半分、頭がぼんやりしていた。
姉と姪のアシストが有り難かった。
14人で列席した通夜と違い、告別式は、たった6人だった。
「骨あげ」でお骨を拾う為に運ばれてきた、「元」遺体。
やっと、「お別れの実感」が沸いてきた。
でも、涙は出なかった。
昔、泣き虫だった私に母が言った言葉がある。
「男は、一生のうち、3回だけ泣いていい時がある。それ以外は泣かないようにしなければいけない。」
他の2回の「泣く権利」が、どのタイミングだったかは、よく判らない。
でも、その1回が、「親が亡くなった時」だと言われた記憶は、はっきりとしている。
もう何回も泣いてしまって、「権利喪失」しているかも知れないな。
今一度言おう。
産んでくれてありがとう。育ててくれてありがとう。
どれだけ、蔑視罵倒されても、あなたを守りたかった。
だから、4年7ヶ月の同居と8年の介護生活は、苦しく無かった。
さよなら、かーこちゃん。でも、これからは同居だよ。
おかえり、かーこちゃん。
ー完ー
「かーこちゃん」は、母の女学校時代のあだ名です。97歳。
眠るように、旅立ちました。大往生でした。
おかえり、かーこちゃん。 クライングフリーマン @dansan01
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