異世界俳優伝説

しょうわな人

第1話 俳優、死す!?

 その日のニュースは穏やかにけれども深い悲しみを持って日本国民に知らされた。


「本日未明、うっ、うっ、俳優の芝井しばい士太郎したろう(本名)さんが、うっ、うっ、八十八歳の若さで、お亡くなりになり、ました…… ご冥福お祈りいたします…… ううー、」


 アナウンサーが泣きながら読み上げたニュースに見ていた人たちも悲しみを深めた。


芝井士太郎しばいしたろう

 日本ひのもとを代表する俳優。初めての出演はテレビドラマの子役(赤子0歳時の時)。

 その後、一歳でもテレビドラマに出演。

 二歳でセリフ有りの役になり、三歳で主役の子供時代を熱演。

 四歳で見事、主演ドラマが始まった。異例となるそのドラマは六歳になるまでシリーズ化され、DVDボックスは売り切れ、プレミア化している。

 七歳であらゆる事を学びはじめたのは全てが芝居に役立てる為であったと八十二歳時のインタビューで答えている。

 柔道、空手、合気道、日本拳法、剣道は全て段位を取得するまで学び、古流である柔術や剣術、棒術、杖術なども免許皆伝まで学んだ。

 また資格取得にも忙しい合間をぬって取り組み、気象予報士、将棋、囲碁アマチュア二段、漢検一級、調理師免許、ファイナンシャルプランナー、英検二級、大型運転免許、大型特殊、クレーン運転士、第二種電気工事士などなど多岐にわたって取得している。

 十五歳までに役の幅を広げる為に脇役でも積極的に出演し、映画でも友情出演で数多くの作品に出た。

 二十歳の時にハリウッド映画に出演。二十二歳で本人の念願だった香港アクション映画に敵役ではあったが出演する。

 二十五歳で衰退し始めた時代劇を盛り上げたいと町人、農民、商人、もちろん侍役もこなしている。

 二十七歳で刑事ドラマでの主演を果たす。シリーズ化されて三十五歳まで続く作品となった。

 三十二歳時には昼ドラと呼ばれるドロドロドラマにも出演しその怪演にて日本中の主婦をメロメロにした。


 三十三歳の時に結婚する。当時十八歳だった妻との結婚には若い方が良いのかと主婦層ファンから怒の声が上がった。

 週刊誌では沢山の浮き名を流した士太郎が遂に結婚とデカデカと書かれたが、実は浮き名それらは売名の為に女性が流したデマであった。士太郎自身は否定も肯定もせずにいたのは、それで仲間が売れて食べていけるのであればという気持ちからであったとは士太郎が六十代の頃に父と同じ道に進んだ息子、弥太郎やったろうの語った通りである。

 実際には士太郎は妻と致すまで清い童貞であった。


 結婚後も精力的に映画、ドラマに出演して震災の時には自費で支援活動を被災地にて行い(妻子同伴の為に撮影は禁止していた)、日本中で芝井士太郎を知らぬ者はいないとまで言われる役者であった。

 晩年、八十六歳まで請われてドラマに出ていたが自身の衰えを感じて八十七歳で俳優引退宣言を出した。


 その死に様は……



「なっ!? なんじゃー、こりゃーっ!!」


 大声に驚いた妻と子供たち夫婦が士太郎の寝室に駆け込んで見ると、腹部分から血を流して倒れ込む士太郎を見つける。

 慌てる子供夫婦をよそに士太郎の妻は冷静に、


「あなた、死ぬ時まで役者なのね……」


 そう言いながらクスッと笑い大粒の涙をポロリと一つ零した。


 実際、腹の血は血のりであり刑事ドラマで殉職した演技を死の間際に披露した士太郎。その顔は非常に穏やかで満足そうであったらしい……



 そんな士太郎が亡くなり日本中が悲しみにくれたその力を持て余した日本の八百万の神は異なる世界の神にその力を託した。


 そしてその際に誤って士太郎の魂をも託してしまったのだった……


 こうして、異世界【ショクワーク】に士太郎の魂は転生する!

 役者バカなこの士太郎の転生は果たして異世界ではどんな旋風を巻き起こすのか?


 乞うご期待!!

 

 

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