第5話 連合軍の錬金術師サマ
市場に着くや否、鎧や剣を携えた身なりのしっかりした男たち数人が俺達に近づいてきた。
詳しいことはあまり把握していないが、彼らは『
この村には外敵から身を護る為に戦える錬金術師が少ないらしい。
なので、ここよりもっと内地の主要国に置かれる錬金術師達の最高機関、錬金連合から護衛としてここに駐屯しているらしい。要は警察みたいなものだ。
で、こいつらの何が厄介かというと、辺境に飛ばされて偏屈になったのかはしらないが、自分たちより弱いこの村の住人を見下しているのだ。
自分たちがこの村を守っているからもっと敬えと偉そうにふんぞり返っている。
それならまだわかりやすいのだが
「女の子侍らせていいご身分じゃねぇか。なぁソーイチくンよぉ?」
「はぁ、どうも」
村に貢献して目立っている俺のことが気に入らないのか、難癖をつけてくる。
どの世界にも、こういうやーな奴ってのはいるらしい。まぁ、そんなの慣れっこだけどね。
適当に愛想笑いでお茶を濁すのに限る。
「村の奴らがどうのこうの言ってるが、この村を守ってやってんのは俺達だ。『銅』の階級を持つ俺が率いる、な。あんまでかい顔すんじゃねぇぞ?」
リーダー格の男が、俺の肩に手を回して威圧してくる。
取り巻き達はそれをニヤニヤと眺めていた。
「はは、わかってますよ。やだなぁもう」
俺一人ならこうやって下手に出てへーこらしてればそれで済むんだが――
「なーにが『この村を守ってるのは俺達だ』よ! あなた達が仕事してるところなんて見たことないし!」
シオンはこういう時突っかかるタイプなんだよなぁ。
ほら駐屯の人たち怒っちゃってるじゃない。やめなさいってばほんとに。
「あなた達よりソーイチの方がよっぽど村に貢献してるんだからね!」
「ほお、言うじゃねぇかピカール家のお嬢ちゃん。だったらソーイチ君に守ってもらわねぇとな!」
リーダーの男がシオンに平手打ちを繰り出した。
マジか! 今まで多少の口論になることはあっても実力行使に走ることなんてなかったのに!
咄嗟に二人の間に割って入る。左頬に熱い衝撃が走り、吹っ飛ばされた。
「っくぅ~いってぇ~」
ワザとらしく左頬を抑えながら大げさに痛がる。
「いやあ、効いた。さっすが鍛え抜かれた錬金術師。俺なんか足元にも及ばないよ」
一拍置いてどっ、と笑いが起きる。シオンはすぐさま俺のところに駆け寄ってくれた。
「世間知らずのピカール家のお嬢様とは違って、ソーイチの奴はわきまえてるようだな」
また一笑い起きる。俺の間抜け面がツボに入ったのか、腹を抱えて涙を流してるやつもいた。道化冥利に尽きるよほんと。
満足したのか、連合の奴らは
「大丈夫? ソーイチ」
「ああ、なんてことないって。全然平気だよ」
「ごめんなさい。私を庇って。ソーイチ何も悪くないのに……」
「いいっていいって。でも、ああいうのもうナシな。今回は俺がいたからよかったけどさ。シオン独りであんな連中とやりあって怪我でもしたらさ、おじさんもおばさんも悲しむよ。あんな奴ら、適当におべっか使ってやり過ごしゃいいんだからさ」
「……でも、私悔しいよ。あんな人達にいいように言われて、私の大好きな村が馬鹿にされて……」
シオンは涙目になりながら俯いていた。悔しそうに口元はキュッと絞められている。
「でも、いざという時には仕事してくれると思うよ? あんな奴らでも一応は強いんだろうし。やっぱいてくれると心強いって。多分な」
「そうかな……」
「そうだよ。さ、用事済ましてささっと帰ろうぜ」
シオンは「うん」とだけ頷いて、一緒に歩き出した。
実のところ、俺はあのリーダー格の男のことをちょっとだけ信用している。
先ほど受けた平手打ちだが、はっきり言って全然痛くなかった。むしろ俺がアドリブ利かせて吹っ飛んだくらいだ。
恐らくちょっとびっくりさせてやろうと、かなり手加減して打ってくれたんだろう。
やっぱ女の子本気で殴るなんてこと流石にしないよなぁ。よかったよかった。
シオンの買い物も済み、俺も試作品を村長に届けて無事に御使いは終了した。
◇◇◇◇◇
連合の駐屯術師たちは、真昼間から酒場に足を運んでいた。
先ほどの想一達とのやりとりを肴に、周りの客など気にせずに騒ぎ散らしていた。
「なあ、あいつの間抜け面見たかよ。めちゃくちゃ吹っ飛んでやがったぜ?」
「それな。女の前でみっともねえでやんの」
「隊長も容赦ないっスねー。女相手に本気でぶちかますなんて」
「ったりめーよ。前々から気に入らなかったからな。ここらで社会の厳しさって奴を教えてやったんだ」
「にしてもあの女、この村の有権者の娘なんでしょう? 大丈夫なんスか? 手ぇ出して」
「はっ! こんなチンケな村の権力者なんてたかが知れてるぜ。俺たちは連合の錬金術師なんだぜ? 揉み消せねぇわけがねえだろうが」
それもそうかと、男たちは再び下品な声を上げて笑い出す。
「あれ、隊長。なんか顔に血ィついてません?」
「あ? どこにだよ」
「ほら、口元。飲みすぎっスよ。口切っちゃってるじゃないスか」
隊長と呼ばれる男は、右手の指の腹で口元を拭う。指先にはほんの少しだけ血が付着していた。
しかし――
「なんだぁ……こりゃあ……」
右てのひら、先ほど想一を叩いた部分が出血していた。
何かで切ってしまったような傷ではない。まるでざらついたやすりで、てのひらを
「これは……」
よく目を凝らしてみると、血に混じって細かく白い粒子のようなものが、まばらに付着していた。
「塩……?」
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