魔王、新宿で後輩とデートする(6/6)

「もう、ほんとビックリして、いつも地下道使ってるじゃない!? 巻き込まれてるかもって思ったら、いてもたってもいられなくて」


 恵美の無事を確認した梨香は、まるで己が身にかかった災難のごとく泣き崩れた。


「電話もつながんないしメールも返ってこないんで、もしやって思ってけつけたらもうとてもみ込める状態じゃなくてパニックでさ!」


「ごめんね、心配かけて」


「んん、恵美は悪くない! 強いて言うなら運が悪かったの! いや、助かったんだから運良かったのか。怪我ひどいの?」


 梨香は恵美のひたいかれた包帯に気づく。


「ちょっとおでこ切って血が出たけど別に縫うような大怪我ってわけじゃないわ」


 恵美にしてみれば本当にさいな怪我なのだが、日本では十分大怪我の部類である。


「恵美、もう帰れるの?」


「警官に連絡先は知らせたし、補償や病院の案内も救急隊の人から聞いた。現場が落ち着いたら一応病院にはんそうするとか言われてるんだけど、怪我これだけなのよね」


「じゃあ帰っちゃダメだよ、きちんと病院行って診断書もらわなきゃ、恵美、携帯とお金は?」


「携帯はあるけど、他はバッグといつしよれきの下」


 の気迫に押されては素直に答え、


「あ! 保険証と通帳とはんこも……」


 今日きようは普段以上に重要なものを持ち歩いていたことを思い出し、血圧が一気に下がる。


「じゃあこれ。病院終わったら連絡して、迎えに行くから」


 梨香はそんな恵美を見て、素早く財布から取り出した一万円札を三枚、恵美の手に押しつけ、


「り、梨香?」


「世の中の仕組みは意外と融通利かないわ! あとマスコミに捕まると面倒だから、ね、必ず連絡してよ?」


 と言って恵美をテープの中に押し返してしまう。しきりと恵美を追い立てる仕草をするのでしばらく戻ってから振り向くと、早速マスコミらしき男が被害者と話していた梨香にマイクを突きつけている姿が目に入った。


 何を言ってるのかは分からないが、梨香はうるさそうに男を追い払う仕草をして、人ごみの中に消えてしまう。


 それを見届けてから恵美は、最初に治療を受けた救急車まで戻り、何人かの被害者とともに素直に最寄の病院にはんそうされた。


 そこで精密な検査を受けた結果、改めて軽傷だと診断を受け、それでも医師がほんの少しだけ大げさな診断書を作成して恵美にほほみ、


「若い女性のひたいについた傷なら、十分に補償をもらわなきゃね」


 そうのたまい恵美を苦笑させた。


 全ての検査を終えて診察室を後にした時にはもう夜九時を回っていた。


「もしもし、梨香?」


 病院内なので、街中ではほとんど見かけない緑色の公衆電話で梨香に電話をすると、最初のコールですぐに相手が出る。


『もしもし? 恵美? どうだった?』


「うん、色々てもらったけど、やっぱり大したことないって。傷口もきちんと消毒しなおして、とんぷくももらったけど、よほど痛まなければ使う必要ないって」


『そっか、大したことなくてよかった! 病院どこ?』


しん宿じゆくよ。医大付属の……」


『おっけー分かった。今から迎えに行くからちょっと待ってて』


「え、いいよそんな、悪いし……」


『あれ? もしかしてご家族が迎えに来たりする?』


 それはこのような非常事態においてはごく普通の問いであろうが、恵美にとっては一つうそをつかなければ答えられない問いだ。


「ううん、その、両親日本にいなくて……」


『え? 海外とか!?』


 驚くの声。何やら身支度をしている音がする。


「そ……んなところ、かな、うん」


『じゃあ益々私はから目を離せないな! とにかく今タクシーで迎えに行くから、十分くらいで着くわ、大人しく待っててね、それじゃっ!』


「あ、梨香、ちょっと待……!」


 問答無用で通話を切られた恵美は、しばしぼうぜんとして緑色の受話器を見つめていた。


 仕方なく病院の待合室で待っていると、やがて受付から恵美の名が呼ばれる。


 今回の診察料金と診断書作成料は、恵美名義で支払った上で補償先に必要書類とともに請求書を送付すれば補償されると説明を受けた。


 そして請求された料金を支払おうとして、恵美の新しい財布は通勤バッグもろともれきの下であることと、恵美の手に金を押しつけて、


『世の中の仕組みは意外と融通が利かない』


 と言った梨香の言葉を思い出した。


 保険証が無いことに関しては当月内に持参することで了承してもらえたが、それでも初診料と診断書作成料はなかなかに高額だった。


 領収書ととんぷくしよほうせんを受け取ると、丁度ロビーの外にタクシーが止まり、梨香が入ってくるのが見えた。梨香はすぐに恵美を見つけてけ寄ってくる。


「恵美、大丈夫!?」


「あ、うん、ありがと。色々助かったわ」


 そう言って恵美は領収書と処方箋を掲げてみせる。


「でしょ?」


 梨香はほほんで、


「とにかく大じゃなくて良かったわ。今夜はうちに来なさい。車待たせてあるから」


「う、うん、でも、本当にいいの?」


「もういいから、余計なこと考えんでいいから、はよ来る!」


「は、はいっ!」


 有無を言わさぬ迫力に恵美は素直に梨香に引っ立てられ、タクシーに放り込まれ、気がつくとたかだのにある梨香のマンションの前に立っていたのだった。






「おじやしまーす……」


 梨香のマンションは、広さは恵美の部屋と変わらないが、新築特有の建材や壁紙、塗料のにおいがまだ部屋に残っていた。


「とりあえずオデコ以外にが無いなら、まずはシャワー浴びて着替えなきゃね、楽なカッコがいいだろうから、今日きようは私のスウェット着て」


 れいに畳まれたスウェットの上下を差し出す。さらにはビジネススーツ用のスーツカバーを取り出し、


「脱いだのはこっちね。もし穴が開いてたり破れてたりしても捨てちゃだめよ」


「え、どうして?」


 は言われるがままに着替えながら問う。着ていた通勤用のグレーのスーツは特に大きく損傷した様子は無かったが、ブラウスがひたいの怪我で流した血にれてしまっていた。


「地下道の管理会社が補償してくれるかもしれんからに決まってるでしょ。全部終わるまで証拠を保全しとくにこしたことはないわ」


「そういうものなんだ」


 公共機関や大資本による民間人への補償などエンテ・イスラでは想像もしなかった制度だから、恵美は未だそのあたりの感覚をつかめていないままだ。


 封建支配の色濃いエンテ・イスラでは、公共事業などで徴収されたたみがなんらかの事故や災害でさいしても、わずかばかりの見舞金を握らされて、捨て置かれるのが常識だった。


「でも梨香、くわしいのね、色々助かってるわ」


「これでも色々経験してきてるからね。あ、お風呂場そっち。下着はとりあえず私の新品をしんていするわ。確か胸とか、私とサイズ変わんなかったよね」


「多分ちゃんより小さい」


「は?」


「……ううん、ごめんなんでもない」


 思わず口を突いて出た言葉にたんそくし、受け取った下着のサイズを確認すると恵美のものと同じだった。


「何から何までありがとう。お風呂いただきます」


 シャワーを浴びると、ぬるめのお湯が肌ではじけ、すぐに色々あった一日の疲れを押し流して、心地よい感覚に満たされてゆく。


「バスタオルは脱衣所の洗濯機の上に置いとくから。あとこれ、体洗うのに使うタオルと、ボディーソープは一番左のやつね」


 浴室のドアのすきからフェイスタオルが差し出され、その手が並べられた容器を指差してゆく。


「そういえばご飯食べた?」


「おなか空いて、正直そっちのせいで死にそうかも」


 素直にそう言うと、梨香は安心を顔ににじませて破顔する。


「簡単なもの作っておくからゆっくり浴びてて。好き嫌いとか無いよね」


 が脱衣所から出ていき、はしばらくだまってシャワーを浴びていたが、


「……なんだろ」


 心がふわふわと浮き立ち落ち着かず、それでいてその状態がとても心地いい。


 魔王を倒す旅の道中、傷つき倒れるたびに色々な人の助けを借りた。宿や食事を提供してくれた人々も大勢いた。


 でも、かつて一度もこんな気持ちを味わったことがなかった。


 肌を流れるお湯の温かさのようにただ無性に心地良く、ずっとこのままでいたくなるような気持ちは。


 まるで自分の中に、あわい光が宿るような。心が、天使の羽で柔かく包まれるような。






「とりあえず恵美の無事を祝って乾杯」


 恵美と梨香は冷やしたミネラルウォーターを入れたグラスを軽く鳴らす。


 梨香が、昨日の残りで悪いけど、と言いながら温めてくれた作りおきの肉じゃがは、空腹の恵美には最高のごそうだった。恵美は普段と変わらない様子ではしを進めてゆく。


「それだけ食欲があるなら、もうなんの心配もいらなそうね」


 梨香が心底安心したようにほほんだ。


「でも油断しちゃいかんからね? 後から異常がぶり返すってのもあるんだから」


きもめいじます。本当にありがとう梨香。お金は必ず返すからね」


「こんな短い間に財布と通帳両方くすとか、恵美も災難だね」


 やくたいもない会話を進めながら、やがて梨香がなんの気なしにテレビをつける。


 どこもかしこも恵美の巻き込まれた地下道崩落のニュースばかりだが、梨香はその映像を流している局をすべて飛ばし、やがて歌番組で手を止めた。


 恵美を気遣ってのことなのだろう。そのおかげでふと、恵美はテレビ台に置かれている写真に目を止めた。恵美の視線に気づいた梨香が言う。


「ああ、それ。うちの家族」


 工場のような建物を背景に梨香と梨香の両親とおぼしき夫婦、それにもう一人ひとり梨香が少し幼くなったような女性。


「これ梨香の妹さん? 似てるわね」


「言われるわー。私にしてみたら何が似てるのかわかんないけどね」


 梨香は微笑む。と。


「あ、ごめん、ちょっといい?」


 梨香のバッグの中で電話の着信音が鳴っている。梨香は恵美に了承を得てから電話を取った。


「もしもしー。うんウチー。てか携帯にかけてきといてウチ以外に誰も出んよ」


 は驚いてを見た。梨香が普段とまったく違う口調で話しはじめたからだ。


「あー、届いた? 別にそんな高いもんやないしー。ウチもよく飲むもんで悪いけど、じいちゃんしようちゆうならなんでも好きやんか」


 梨香は関西出身と聞いていた。しかし恵美の知っている関西弁とはまたみようにイントネーションが違う。


「お盆にはまた帰るから。今日きようの事故? 心配せんでいいよ、職場近くだったけどウチはなんともないから。みんなにもそう言っといて、はい、はーい」


 短い会話が終わった。梨香は携帯電話を放り投げようとして、思いなおしたようにコンセントに差しっ放しにされていた充電コードをり寄せて電話に差し込む。


「おかんからやった。今日のことで心配してたみたいだけど、ウチのおかんに恵美のこと話しても始まらんしね」


「梨香の方言初めて聞いた」


「あれ? そうだっけ。家族や地元の友達と話す時はいつもこうだよ。ウチの実家、こうなんだ」


 そういえば梨香の言葉は、崩落現場で会ったあたりから微妙にいつもと違っていたような気もする。地が出ていた、ということなのだろうか。恵美はほほんだ。


「へー、何か新鮮。私東京からほとんど出たことないから、西の方とか行ってみたいんだよね」


 高い時給の仕事とはいえ裕福な経済事情であるわけでもなく、旅行など当然したこともない。魔王さえいなければ、またはとうばつしてしまえば、少しくらい日本を巡ってみたいと思っているのだ。当分先のことになるだろうが。


 そのまましばらくは食事に集中し、歌番組が終わる頃には恵美はすっかり出された料理を平らげてしまった。


「食べるねー。これは本当、心配いらないかな」


「おかげさまで。食器、これシンクで水につけたほうがいいかな」


 恵美は手早く食器を重ねる。油ものとそうでないものを分けて水に浸す。


「さんきゅ、そのまま置いておいてー。後で洗っておくから」


「はーい。あ、ごめん、ニュース見ていい?」


「ん? いいけど、大丈夫?」


 どの時間帯のニュースだろうと、どうせあの事故を報道しているに決まってる。梨香はいつしゆん表情をくもらせるが、恵美は大丈夫だと首を振った。


「天気予報とか見たいし、それ以外のこともやるでしょ」


「ん、そっか。この時間だと報道ターミナルかな?」


 梨香はリモコンを取ってチャンネルを回す。恵美が戻ってきて元の場所に座り、ニュース画面に目をやる。トップニュースはやはりしん宿じゆく地下道ほうらく事故だったが、思ったより大きく時間をかれておらず、すぐに都内でひんぱつしている路上強盗のニュースに移った。


「やだなー。なんか最近ツイてないから、こんなのにもひっかかっちゃいそう」


 そんな感想をらすの横顔を、はじっと見ていた。そして、


「あー、もう! 恵美大好き!」


「え? は? ちょ、ちょっと梨香?」


 突然恵美の背後から抱きついた。


「なに、ちょっと、いきなりどうしたのよ」


「んー、やっぱ恵美いいわー。なごむわー」


「はぁ?」


 少しの間、梨香はまるでゆりかごをするように、恵美に抱きついて体を揺らしていた。恵美は良く分からないまま梨香に身を任せていたが、やがてそのままの形で梨香が言う。


「実はね、私面倒くさくて、東京に出ることになってから標準語に直したんだよね」


「面倒くさい?」


 恵美は首をかしげた。地方出身者など東京にはいくらでもいる。恵美達の会社にも方言のイントネーションを残したまま仕事をしている人間は何人かいた。


「だって、標準語にしておけば出身地を気にされる心配ないじゃん?」


 そう言えば梨香から関西出身であるということ以外、地元の話を聞いたことはない気がした。恵美も地元のことは話そうにも話せないので特に追求することはしなかったのだが……。


「東京の人間は、兵庫の人間に平気で地震のこと聞いてくるからね」


「あ……」


 恵美はハッとして、抱きつかれたまま梨香を振り向く。


「それしか話題無いんかって思うほど、皆地震の話しかしないから、それ以来面倒になって地元の話しなくなったの」


 梨香は家族の写真に目をやる。


「ウチは阪神大震災の時は小さかったけど今でもあの日からのことは忘れられない。本当に怖かったんだ。ウチは中小企業の工場が集まってる、被害の大きかった地域に住んでたから」


 日本で十数年前に起きた歴史的大地震のことは恵美も知識としては知っていた。


「家族全員無事だったのが奇跡みたいなもんでさ、友達の中には家族を亡くした子も大勢いて。ウチは小学生だったけど、学校が始まった時にはクラスメイトが二人ふたりいなくなってた。引っ越しちゃったんだろうって思いたかったわ」


「……そうなんだ」


「だから平気で『地震どうだったの?』なんて聞いてくるやつらの無神経さに腹が立ったよ。じいちゃんの工場はつぶれるし、避難してる間も余震が続いて、毎日おびえてたからさ」


 梨香はたんたんと語る。それは心の中で決着がついている人間の話し方だった。


「でも、地元を一歩出れば皆どこか遠くの出来事って感じでさ。どこに行っても、地震から何年経っても、実家がこうだって言うと皆最初に出すのは地震の話題。想像力が無いんだろうなって思って。ウチはそういう人間とはあまり友達になりたくなかった」


 だが、そのスタンスを取ることをいつしかあきらめたという。


「会うやつ会う奴ほぼ全員だったから、そんなこと気にしてたら誰とも付き合えないな、と思ってさ。で、出身隠すために言葉を直したの。しててごめんねー」


「そんな、誤魔化すだなんて……」


が初めてだよ。神戸だって言って、地震のこと聞いてこなかったの」


 はようやく恵美から離れると、グラスを持ってキッチンに立つ。冷蔵庫からミネラルウォーターのお替わりを注いだ。


「今までの価値観がまっさらになったとき、人間ってどう転ぶか分からないんだよね」


 その言葉にいつしゆん恵美は心臓が強く胸を打つのを感じた。


「いるのよ、混乱に乗じて悪いことをしてやろうって奴らが。逆に自分の明日あしたも分からないクセに人のことを必死で助けようとするお人よしもいるしね。思ったなー、よくあるじゃない? かつとうする時に自分の顔した天使と悪魔が言い合うみたいな表現」


 梨香は冗談めかして自分の両手を言い合いさせるような仕草で動かす。


「人間本当にその気になれば誰でも天使にも悪魔にもなれるんだって思ったよ」


「天使にも……悪魔にも?」


 梨香の何気ない言葉が、ひっかかった。一瞬思考に没入する恵美。


「で、その写真は、ゼロから必死で頑張って十年かけて工場を立て直したじいちゃんとおやの努力の結晶。この不況でも、昔の縁でなんとかやっていけてるわ」


 グラスをまた恵美の前に置いて梨香は言う。


「ほんと怖かったわー。まさか東京に来てまであんな事故が起こって、しかもまた友達が巻き込まれるなんて、考えたくなかったもん」


 友達。その言葉に恵美ははっとする。いなくなっていた梨香のクラスメイトと、彼女は親しかったのだろうか。


 場合によっては巻き込まれていたのは梨香だったかもしれない。災害の恐怖を身に染みて知っているからこそ、今大人になった梨香は、純粋に恵美の力になろうとしてあれこれ世話を焼いてくれている。


「恵美?」


「……え?」


「大丈夫? ごめんね、変に考えさせちゃったね」


 そう言って苦笑した梨香はグラスのミネラルウォーターを一気に飲み干す。まるで記憶の中の暗い感情をみ込むように。


「でも、結果的には無事だったし。のおかげでほんと助かったもの。感謝してるわ」


「やめてよ。友達助けるのは当たり前っしょ。変に改まられるとむずがゆいわ」


 そのしゆんかん、また、あの感覚が戻ってきた。あわい心の光。暖かい、気持ち。全身が守られているようなあの心地良さが。


「だから私は、あんたには特に何か聞こうとは思わないんだ」


「え?」


がどこに住んでたとか、どこから来たとか、そんなことはどうでもいい。私にとって恵美は、バカなこと言っていつしよにご飯食べて、時々遊ぶ友達でいてくれれば十分」


「梨香……」


「そういえばさ」


と、突然梨香は、にやりと笑って恵美に顔を近づけてきた。


「あの男、誰?」


「へ?」


「あんたが事故現場でお話してた男よ」


「え? え? あ、あいつ?」


 当然それはおうのことだろう。


「あいつ、とか言っちゃう仲の男なの? 結構いい男っぽかったけど、とっても気になるなー」


「ちょっと梨香、今何も聞かないとか言ったじゃない。大体あいつはそんなんじゃ……」


「色恋は別じゃ! 私の天使に近づく男はみなおおかみじゃ!」


「梨香、キャラおかしいわよ! 本当にあの人は単なる知り合いで、むしろそれ以下の存在よ。狼どころか悪魔よ悪魔」


 うそは言っていない。知り合い以上の存在では決してないし、実際に悪魔である。


「悪魔……」


「恵美?」


「天使と……悪魔」


 真奥はあの場で悪魔の姿を取り戻した。あのせいさんな事故が起こった現場で。


「どしたの?」


 尋ねてくる梨香の顔を見る。友達、と言ってくれた梨香の顔を。


 お風呂で、食卓で、友達に抱きしめられて、心が天使の羽にくるまれたような暖かさ。


 その原因は、


「人の……心?」

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