魔王、生活のために労働に励む(3/7)
結論から言えば、フェア商品売り上げ地区一位は達成できなかった。ランチタイムを過ぎて突然ポテトを揚げるためのフライヤーが一機故障したのである。
メンテナンスが来るまでに二時間を要し、その二時間が生死を分けた。
あんなに激しく降っていた雨も、夕方頃には上がっていた。おかげで店から
雨やフライヤーの故障以外に至らなかった点は無かったか。帰りの道すがらそのことばかり考えていた真奥は、昼に女性に傘を貸した、あの交差点に差しかかっていた。
「……あれ?」
時間帯は深夜である。レストランはとうに閉店して
あの、レストランの
夜の
「あれ? 昼間の……」
しかし、真奥は言葉を途中で止める。どこかおかしい。
女性は言葉を発さず、真っ
にわか雨に虹をかけそうな明るい
間違いなく、今の彼女は、こちらを
「あの後、大丈夫だった?
「大丈夫じゃないわ」
「は?」
声もまるで真冬の放射冷却のように冷たい。
「
「え、そ、そう。あ、ありがとう」
営業トークを
女性がこちらに一歩
「ずっと向かいのお店から観察してたの」
「観察……って、店を?」
店の向かいには通りを
「いいえ、あなたを」
「お、俺?」
「……外見があまりに違いすぎるし、気の迷いかと思った。でも、そのうち気づいたわ」
「まさかと自分の感覚を疑ったわ。このあたりにいるとは分かってたけど……」
いる!
「あなたの中に残るわずかな魔力だけは、私には隠しようがないわ!」
まさか!
「魔王サタン!
流れる
「お、お前……っ、勇者エミリア!」
エンテ・イスラを魔王の手から奪い返した勇者の名こそエミリア・ユスティーナ。エンテ・イスラの聖女とまで
「いかにも私はエミリア! 何故ここにいるかは分かってるわね!」
「ま、まさか……」
「あと一歩で逃した魔王サタンと四天王の生き残りアルシエルを追って世界を渡った! あなた達を放置しておけば世界はまた
「ま、待てエミリア! 話せば分かる!」
「問答無用! 魔王覚悟っ!」
勇者エミリアは、突然ナイフを取り出して真奥に向かって切りかかってきた。間に挟んでいた自転車越しに突き出された切っ先を、真奥は後ろに
「うわっ! あぶねっ!」
「
「そんなわけに行くか!」
デュラハン号を飛び越えて
間合いを取り直した真奥だったが、彼はバイト帰りであるが
「お、おい、勇者エミリア」
「何、命乞い? 今さら敵と語り合う言葉は持たないわ!」
迫力に
「お前、聖剣はどうした」
「……っ」
小さく息を
「そのナイフ俺も持ってる。
「な、
エミリアに大きな
「お前……もしかして
「……っ!」
エミリアの
エンテ・イスラから追っ手がかかることはある程度予測していた。
「で、でもっ……それはあなたとて同じことでしょう? あのときとは比べ物にならないほど
「まぁそりゃそうだが……」
真奥はエミリアの言葉に心の中で舌打ちするが、隠しても
「聖剣など無くとも、魔力を失いアルバイトで生活する魔王など恐るるに足らず! 覚悟っ!」
エミリアがナイフを高々と振り上げる。
光が、真奥とエミリアを
国立西洋美術館の特別展調査が空振りだった
冷蔵庫に残された食材だけではとても生きていけない。博物館調査費用
「はぁ……
開け放しの窓から飛び込んでくる羽虫を追い払いながら芦屋は時計を見た。
「魔王様遅いな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます