誇りの欠片〜転校生の挑戦状〜
小林一咲
第1話 挑戦状
新学期が始まって数日。学年トップの成績を誇り、スポーツも得意で誰にでも親切な新田誠は、校内で「完璧すぎる男」として注目されている。彼は常に自分に厳しく、何事にも全力で挑むため、「プライドが高い」と思われることも多いが、それが誠にとっての信念だった。
ある日の昼休み、誠が教室で弁当を食べていると、見慣れない女子生徒が彼の席の前に立った。短い黒髪が清々しく、瞳には強い意志が宿っている。彼女は今週転校してきたばかりの沢村遥香だ。
彼女は澄んだ瞳でじっと誠を見つめると、突然こう言った。
「新田君、君ってプライドが高いよね?」
いきなりの指摘に、誠は一瞬驚いたが、すぐに平静を装い微笑む。「それが僕の良さだと思ってるんだけど?」
遥香はニヤリと笑い、「そんな完璧さって、どうなの? 私はもっと欠点があった方が人間らしいと思うな。だから、私がその誇りをちょっと崩してあげようか?」と挑発する。
「…崩す?僕のプライドを?」誠は半ば呆れつつも、その挑戦に少し興味が湧いてきた。
「じゃあ、勝負してみよう!」遥香はキラキラした目で言い、誠の心に小さな火をつけた。
翌日、遥香は「数学の小テストで勝負しよう」と提案した。教科の中でも誠が得意とする分野で、いつも満点を取ってきた科目だ。
テストの結果が返ってくると、誠の点数は98点。惜しいミスが一つだけあった。一方、遥香の答案には鮮やかな「100点」の文字が並んでいる。
「え、満点?」誠は驚きながらも思わず感心してしまう。
「どう? 少しは私のこと、見直した?」遥香が勝ち誇った顔をすると、誠は悔しそうに小さく頷いた。「次は負けないよ」とだけ返す。
次に遥香が挑んできたのは体育の授業。種目は50メートル走。誠は陸上部のエースとしても知られており、50メートルを7秒台で走る俊足だ。しかし遥香も運動神経が良いらしく、彼女は自信満々で並んでいた。
「じゃあ、スタート!」クラスメートが掛け声をかけると同時に二人は飛び出す。誠は7.3秒でゴールし、遥香はわずかに遅れて7.6秒でフィニッシュ。誠が初めての勝利を収めた瞬間だ。
「やったね、僕の勝ちだ!」と誠が誇らしげに言うと、遥香は少し悔しそうに唇を噛むが、「次は負けないから」と意気込む。
放課後、今度は料理勝負を提案してきた遥香。「明日のお弁当、どっちが美味しいか勝負しよう!」というものだ。実は誠は一人暮らしで、自炊が得意。遥香も料理には自信があるらしく、クラスメートたちにも評価してもらうことになった。
翌日、二人はそれぞれのお弁当を持参し、教室で並べて広げた。誠が作ったのは、彩り豊かなチキンの照り焼き弁当。バランスを考えた盛り付けに自信を持っていた。一方、遥香の弁当は和風のおにぎりと手作りのおかずが詰まっており、細やかな心配りが感じられる。
クラスメートたちに試食してもらうと、意外にも遥香の弁当が好評で、「こんなにおいしいおにぎり、初めて食べた!」と感激する声が上がった。最終的には遥香の勝利となり、誠は少し悔しさを感じながらも、彼女の料理の腕前に素直に感心した。
「やっぱり負けると悔しいな。でも、君の料理、すごく美味しかったよ」と誠が言うと、遥香は満足げに笑った。
その後も遥香の挑戦は続いた。しかし勉強や運動だけでなく、ある日彼女が持ちかけてきたのは、「どちらが相手を先に笑わせるか」という奇妙な勝負だった。
放課後、二人は教室で向き合い、誠は「これは簡単に勝てるだろう」と内心思っていたが、遥香が変顔を始めた瞬間、思わず吹き出しそうになり必死に堪える。
次に彼女が妙な歌を歌いながら踊り始めると、誠はとうとう笑ってしまった。
「ははっ、もう無理! 君の勝ちだよ」と認めざるを得なかった。
「やったね!」と喜ぶ遥香を見て、誠は胸の奥が少し温かくなるのを感じた。完璧であることが誠の誇りだったが、彼女の無邪気な挑戦がそのプライドに小さな亀裂を入れていることを、自分でも認めざるを得なかった。
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お読みいただき、ありがとうございます。
ファンタジーを中心に書いております、
以後、ご贔屓によろしくお願いします🥺
もしこの物語を楽しんでいただけたなら、他の作品もぜひチェックしてみてください。
『凡夫転生〜異世界行ったらあまりにも普通すぎた件〜』
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