第6話
いつもと同じ朝が来る。
しかし一つだけ違うことがあった。
それは啓一と恵が入学式以来、初めて一緒に登校しなかったのだ。
「啓一くん!今日はどうしていつものところに居なかったの?」
「悪い、ちょっと用があったんだよ」
「先に言って!博美さんが来なきゃ私ずっと待ってたよ!?」
「あー、次からは言うな。そういや連絡先交換してなかったな。これの俺のID」
「あ、そうだよ!啓一くんの連絡先ゲット!」
まだ交換してなかったんだと、クラスメイト全員が衝撃を受けている。
それほど二人は四六時中一緒にいるのだ。
「ほらぁ席付けぇ!」
「げ!?なんで八幡がいんだ!?」
今日は普段啓一の担任をしている
八幡はかなり厳しいことで校内でも有名であり、思わず声をこぼしてしまった奴を誰も責めれはしなかった。
一人を除いて。
「誰だぁ俺を呼び捨てにしたの。なぁちょっと立ってみろ船橋?」
名前を呼ばれた
魔術の成績はクラスで恵に次いで二番目の成績だが、学年全体での順位は二桁になるような生徒である。
成績もあまり良くはないが、入学してから持ち前の明るさでクラスのムードメーカーとして確立している。
「さて、お前の罰は何にすっかなぁ」
「ひっ!?どうか、放課後の学園街のパトロールだけは勘弁してもらえませんか」
「それいいなぁ。と言いたいところだがそれはしない」
そういうと、脇の下から腕をいれ羽交い絞めにしたあとに、地面からもう一人の八幡が現れて腹を殴り始めた。
「ぐほっ、いてっ、やヴぇ、がはっ」
「大丈夫だ。内臓を破裂しても俺は治癒魔法が使える。俺の話が終わるまでこのままだ」
「おほっ、そんな、やめ、いで」
「うるせぇな。サイレント」
羽交い絞めのまま八幡が指を鳴らすと、紀太の悲鳴は聞こえなくなった。
しかし紀太の血反吐を吐いては治療される地獄は続く。
「あー、気を取り直して今日は中山先生は休みだぁ。故にあいつが担当する剣術の授業は自習となった」
「先生、理由を聞いてもいいですか?」
「あーなんでも、異世界に居たときにパーティを組んでた警官の・・・BSFに所属していたらしいが、今朝に何者かの襲撃があったらしくてなぁ」
そういうと八幡は、手元にある全員のタブレットにとあるサイトのリンクを送る。
開くとニュースサイトのページが開き、記事の見出しに"警察特殊部隊BSF隊員10名逮捕!誤認逮捕や誘導尋問が発覚か?"と言う見出しが出てきた。
「この記事に写真や詳しい記事はないが、中山が受けた電話によると中山の友人は身ぐるみを剥がされ、正体不明の書類と共に道路に放置されていたそうだ」
クラスの生徒たちは一斉に騒ぎ始める。
中山は教師としても、剣士としても優秀であるからだ。
「怖っ!」
「物騒だなーというか中山先生のパーティメンバーってことはそれなりの実力者だよな!?」
「でも待って、この記事を見せたってことは・・・」
生徒達がガヤガヤと予測を話始めるが、一本〆の要領で手を叩いた八幡のおかげで我に返る。
「おっし、静かになったなぁ。これは俺の予想に過ぎないが、このニュースに出てるBSFの一人が中山の元パーティーメンバーで、不正を発覚させたのはこの学校の生徒だと踏んでる。まぁこの予想が外れればいいが、誰か心当たりがある奴がいれば教えてくれ」
全員が再び騒ぎ出すが、一人騒がずに手を挙げている奴がいるのを八幡は見つけた。
啓一だ。
「先生」
「なんだ蘇我?まさかお前が実行犯か?」
「まさか。でもそれって生徒会長の津田先輩じゃないですか?」
顎を撫でながら、一考し不敵な笑みを浮かべて啓一を見る八幡。
そのことに啓一は微動だにしないが、クラスメイト達は恐る恐る見守っている。
「ほぅ。どうしてそう思う?」
「だってBSFってエリートがなれるって聞きました。そんな彼らを倒せるなんてもう津田先輩しか思いつかないです」
「確かにな。それにあいつは正義感の強いやつだ。不正を見たなら動き出してもおかしくはない。良い着眼点だな!」
啓一の言葉を肯定しつつも、聞いてみるとは言わない八幡。
津田は政治家の親族であるため、神域学園な生徒が疑われれば真っ先に事情聴取が入るからだ。
「蘇我のような意見はじゃんじゃん聞いてくれ。俺達教師も早期事件解決したいからな。今日からはしばらくは登下校は制限される事を覚悟して欲しい」
「「えぇー!?」」
自分達をまるで小学生の様に扱われる事に、流石に厳しいと言われる八幡の前でも不満の声が上がった。
「不満もあるとは思うが少し黙れ」
直後八幡から放たれた怒りの魔力波が生徒達を怯えさせ、教室に沈黙を走らせた。
「まぁ話す事は終えたし今日の朝礼はこれで終わりだ。お前らEクラスなんだから授業はちゃんと出ろよ」
そう言って八幡は教室を後にするが、その背中を啓一はじっと見つめていた。
「啓一くんどうしたの?さっきの、啓一くんらしくないね」
「そうか?」
「うん。だって啓一くん普段はこんなこと気にしないじゃん。積極的に発言すること自体クラスのみんなは珍しそうにみてたよ」
「まぁ少し思うところがあったんだよ」
恵の言うとおり、クラスの視線が今は啓一へと向けられている。
その視線を煩わしく思った啓一はクラスメイト達に満面の笑みで手を振り、別の意味でクラスメイト達を恐怖させた。
「みんなぁ・・・俺のこと忘れ・・・ない・・で」
痙攣している船橋は、みんなに忘れ去られていた。
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異世界を滅ぼした勇者ですが、受け入れてくれますか? 茶坊ピエロ @chabopiero_1919
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