オレを国から出してくれ!

第22話 芋芋芋!

* * * *




 バンガスがアズライドと行動し始めていく日か経過していた。


 結局マッチポップは渋々とアズライドの選択を受け入れて「本当に心配なので毎日見に来ます」固く言葉を誓ったようで有言実行に毎日姿を見せた。


 1週間に一度が二度。そして今は毎日である。


 マッチポップワールドに巻き込まれるバンガスはその精神的疲労を強く感じていたのだ。もう顔すら見たくないと思わせる程に。


 堪ったもんじゃねぇよ、おい。


 バンガスはここ数日のマッチポップな言動が頭に張り付きながらも、芋の詰まった何キロもありそうな箱を担いで指定の場所に運搬しまた戻る。


 今現在バンガスとアズライドの2人は村の中で依頼を熟している。


 荷運びの土中、畑で芋を抜き取る村人と一人場違いな桃色の女の子に目を向けた。一生懸命に収穫するアズライドの姿がそこにある。


 やってんなと小さく思うと、隣にそこそこ筋肉のある中肉中背の男が舐るようにバンガスの体に見ているのに気がついた。


「それにしても兄ちゃんすげー筋肉だな。惚れ惚れする……」

「それほどでもねーよ」

「謙遜も過ぎれば嫌味だぜ!」


 どうやらバンガスの到底人とは思えない肉付きに感嘆している様子だった。男であればそこに惹かれる何かはあるのだ。


「収穫の時期に手伝ってくれて本当助かるよ。毎年村の奴らだけでもヘトヘトなんだ」

「結構な芋の量だもんな。年貢でも持ってかれんだろ?」

「3割ってとこだな。そこまでキツくはねーよ」

「そうか」

「一緒に来た嬢ちゃんも頑張ってるな。あんま慣れてないのか大変そうだけど」


 桃色の女の子は太い蔓を両手で握り、身入りがいいのか土が硬いのか引っこ抜くのに難儀していた。


「フンギャオオオオン!! 抜けませんわあああああ!!」

「嬢ちゃんもっと腰入れんだよ。腕だけじゃ疲れるだけだぜ」

「ギャオオオオン! ギャオオオオン!」


 村人のアドバイスを聞いたのか腕のみならず腰をも上手く使い、徐々に土が盛り上がりその下の根と芋の一部の空気に触れさせる。


 そして勢い余ってすっ転ぶと、根から繋がる歪な形の芋が何個もぶら下がっていた。


「抜けましたわ! 手強いお芋さんでした……。お師匠様ああぁぁぁ!!」


 アズライドは今し方抜いた大物を遠くからバンガスに見せる。バンガスはこそばゆくもいい感じじゃねぇかと少しだけ笑い、溜まった芋の詰まる木箱を肩に乗せる。


「……1人じゃ乗せられねーから、もう二つ両肩に頼むわ」

「マジ?」

「大マジ」


 片側に三箱、もう片側に三箱。計六箱。バンガスはその多大な重量をものともせず歩き出す。


「この村で一番持てるのが俺、計4つだ。自信無くすぜ……」

「気にすんな。俺が特別丈夫なだけだ」


 生まれ持ったものだからなこればっかりは。


 バンガスはそう思いつつ依頼を熟す。


 同じことの繰り返しで時間は過ぎ去り、赤い夕焼けが空に掛かる頃合い。収穫も殆ど終えて、倉庫には山のように箱が詰まり隙間はなく高く積まれた状態。


 バンガスはこれで最後だと一箱を置くと、そのまま村長とアズライドが待つ村の出入り口まで歩いた。


 2人とも土仕事のせいか土気色に染まっている。アズライドに関しては見るからに疲れ喘いでいるようだった。


 バンガスは最早土仕事で変化する程度の汚れではない。


「いやぁ、今回は本当に助かったよありがとう」

「ま、依頼だからな」


 村長から話しかけられ軽口でそう返す。


 バンガスは非正規冒険者として、主に気が向いた時にそこらの村を訪ね依頼を受ける。


 困り事は無いかと直接尋ねて交渉するのだが、解決が難しい事柄だったり人手が要るものだったり案外すんなりと仕事にはありつけた。


 今回はアズライドという他人を引き連れての事だったが特に問題も起きず上手く行った。これまでの生活の中で体力的には少々難があるかと判断していたが、それも慣れればどうとでもなると楽観的ではあった。


 大自然の生活の中でそこそこハードな依頼を受ける。流石にアズライドはこたえたようでフラついていた。


「づ、づがれまじだわ……」

「大分張り切ってたもんなお嬢ちゃん」


 村長の反応からして足手纏いという感じにはなっていないようだ。


 バンガスは頭を掻きながら本題だなと考えた。


「そんで金の話になるんだが……」

「……これだけ働かせて申し訳ないのだが、今ウチの村はやりくりが厳しくてな」


 村長はこれ見よがしに眉を落とした。


「そうなのか?」

「あぁ。出来れば現物……収穫品なら助かるんだが」

「なら芋でいいぜ」

「本当に助かる! 恩に切る!」


 バンガスは少し引っ掛かりを覚えたものの、金だろうが現物だろうがそれは報酬には違いない。


 まるでサンタクロースの抱える袋の如くパンパンに詰められた芋を受け取ってレザーコートに仕舞う。


 村人の好意からか既に蒸した芋をも貰い、見送られながら2人は大自然へと戻った。


 道すがらに食べた芋は濃厚な味わいと強い塩気が利いて依頼の後の体にもってこいな物だった。アズライドは無我夢中で齧り付いていた。


 既に日は落ち始めているのでそこまで深くは入らず適当に見繕った拓ける場所を寝床とする。どちらかと言えば人里に近いような距離の場所だ。


 焚き火の準備もバンガスはお手のもの。これに関してはアズライドもギルド所属の冒険者だったので簡単に用意が出来るだろう。


 燃え上がる火を囲んでバンガスとアズライドは反対に座っている。手を当てると肌に染み込む熱が心地良い。


「食い足りねぇからもっと芋焼くか」

「美味しいお芋さんですわ!」


 バンガスは薄ら笑って幾つかの芋を取り出し、特に何をする訳でもなく火の中へ投じた。


 じっくりと焼けたホクホクの芋。2人は夢中でそれらを腹に詰める。


 真っ暗になった森の中は虫の音が静かに響く。時々風が吹いて草木を鳴らし、自然の中は凡ゆる音に包まれている。


 バンガスは両手を頭に組んで火の隣で横になる。背中には小石や草の感触があるが気にする事はない。


 アズライドといえば手慣れたように小さなテントを張り、その中で何やらガサゴソと聴こえたがバンガスは敢えて聞かないようにした。


 晴れた天には光の粒が爛々と輝いていた。


 バンガスはただそれを眺めながら襲ってくる眠気に身を委ねるのであった。

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