鳩と今日と私たち
雛形 絢尊
第1話
13日の木曜日、街に出る。
駅前の人通りは多く、
誰もが街をその足で歩いている。
自然が少なく、近代化が近づくこの町にも
少しずつ冬の予感がしてきた。
枯れ木のような、少し物悲しい木々たちが
我先にと冬を体現している。
肌寒くもなってきた。
これの倍以上寒くなるなんてと、
溜め息にも似た声を漏らす。
少し早めに待ち合わせ場所まで来てしまった。
駅前の丸い形をしたベンチに腰をかける。
しばらくすると、浮浪者のような男性が
私の向かい側に座る。
そちらのベンチも円形だ。
彼は腰掛けたのち、小さく袋を取り出す。
おそらく、パンの耳だろうか。
このあたりにいる鳩にでもやるのだろう。
と、私は手元のスマートフォンを
いじり始めた。
数分経ったのち、私は彼に目を向けた。
その後に、私の眼下を見た。
鳩が輪を描くようにこちらに集まっている。
再び彼に目を向けると、
「え、俺は」と表情だけで分かった。
私はあまりのこの状況を
望んでいなかったので、
譲りたいところなんだが、
彼のそのなんとも言えない羨ましい、
という顔が見るに耐えなかった。
今すぐにでもこの鳩たちを退けてくれ。
彼は立ち上がり、こちらに向かってくる。
こんなことで揉めたくない。鳩で。
彼は私の右隣に腰をかけた。
彼の目は虚ながらこちらを見ている。
何を言い出すのか。今すぐにでも
何かを言いかけそうな彼が
口を開こうとした瞬間、
鳩が徐々に彼から離れるように去っていく。
私はなんとも言えない気持ちに駆られ、
苦笑いをした。
「鳩に嫌われてる」
彼が重たい口取りで言う。
私は無言で頷いた。
「毎日来てる」
私は彼の顔を伺いながら言った。
「1日くらい空けてみたらどうですか?」
「毎日じゃだめか?」
「鳩も嬉しいとは思うんですけど」
「じゃあ明日は来ない」
「明後日は来るじゃないですか」
「今俺は離婚危機の最中にいる、
平和の象徴に願掛けをしているんだ」
鳩が去っていく姿を思い出して少し胸が痛む。
2匹の鳩がこちらに向かってくる。
彼は2匹に指を差し、
「これが嫁でこれが娘だ」と言った。
「あ、お二人とも鳩なんですね」
と私は冗談めかしく言った。
違う、と彼は言い返してきた。
私は続けて冗談ですよと言った。
「戻ってきますよこんな風に」
と私が言った途端、
その1匹の鳩が彼の座る右隣に来たのだ。
「ほらね」
それから彼にも、鳩にも会っていないが、
おそらく上手くやってるだろう。
昼下がりの平和というものは美しい。
家に帰って少しでも
仲直りできていたら嬉しい。
鳩と今日と私たち 雛形 絢尊 @kensonhina
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