ぞっとする昭和実話怪談『マンホールの住人』

redrock

第1話「側溝の中」

全て実話です。


清酒工場の煙突から出る甘い香りが漂う街。廃液を悪臭放つヘドロまみれの川に垂れ流す昭和四十年代のK市・・・


あれは私が幼稚園に通っていた時の話です。


同じ幼稚園の忠行君と近所の公園に遊びに行く途中、学校帰りの小学生たちが側溝で騒いでいます。見に行くと、側溝から地下へ雨水を流す穴があり彼らはその中を覗いていました。


「何があるの?」


私が訊くと顔見知りの太った小学生が、「中に入りたいが入れないんだ」と言いました。他の子も体が大きくて入れないそうです。

穴の中を覗くと梯子のようなものが立て掛けてあります。

日が届かないのではっきりとは見えませんが、その中はかなり広く感じました。


「お前なら身体が小さいから中に入れるだろう。ちょっと偵察してこい」


私は怖いので断りました。


「もし出てこれなかったら大人を呼ぶから大丈夫だ」


はやし立てられた私は、小学生たちからプロ野球カードをもらうことを条件に梯子を下りることにしました。


穴の入り口は小さく私でもぎりぎり入るかどうかでした。

足から入り時間をかけ梯子を一歩ずつ下ります。短い梯子でしたが子供の私にとってそれはとても長く感じました。


穴の中は静寂と暗闇に包まれています。

漂う悪臭が鼻を突きましたが我慢できないほどではありません。

目が慣れてくると徐々に空間が見えてきました。

そこは六畳程の広さがありまるで部屋のようです。


その時足に何かが当たりました。


良く見るとそれは小さなちゃぶ台です。その上に箸と茶碗、そして皿がありました。上を見ると二段ベットのようなコンクリートの出っ張りあり、その上になんと布団が畳んであります。


明らかに誰かが住んでいます。


雨が降ると側溝から雨水が流れ、この場所が水没するのは子供の私でもわかります。


なぜこんなところに住んでいるのか?

住人は今どこにいるのか?


私は急に怖くなり慌てて梯子を上りました。そして穴から顔を出し太った小学生に大声で言いました。


「ここに人が住んでいる!!」


すると小学生たちは、「うわーっ!」と悲鳴を上げながら蜘蛛の子を散らすように逃げていきました。


その後時間がかかりましたが、忠行君が私の手を引っ張り上げてくれたおかげで、なんとか穴から出ることが出来ました。

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