第35話

 妖精共振状態でマウンテンウォールに殴りかかる。

 マウンテンウォールの上半身は魔法弾を受け、下半身は拳で攻撃する。


『ぐうううううう!』

「苦しいよね? そんなに大きくて装甲も厚い魔装ゴーレムは長時間動かせない!」


『何のおおおお!』

「部下を守る為に前に出るしかなかったんだよね!? 降参するんだ!」

『降参などない!』


 振り下ろされる拳を避けて腕に拳を叩きこむ。


『ぐおおおお!』

「おかしいと思っていた。マウンテンウォールがあるなら王都を攻めればいいのにって。でも戦って分かった。王都を攻めなかったんじゃない。攻める事が出来なかったんだ! マウンテンウォールは強襲向けですぐに動けなくなる!」



 マウンテンウォールの後ろに回り込み膝カックンをするように膝を殴った。

 マウンテンウォールの膝がガクンと曲がる。

 反対側の膝を殴った。


 マウンテンウォールが前に倒れ込みながら蹴りを繰す。

 それを躱した。


「そろそろ、魔力がきついよ」

「妖精共振を解除だ」


 ピュアが衝撃に耐える程度の魔力を残して妖精共振を解除した。

 まだだ!


「ブルーモード!」


 キュイイイイン! と高い音を発生させて機体が青く光る。


「残り3分で倒す!」


 僕は全力でマウンテンウォールを殴った。

 何度も殴る。

 殴るたびにまるで硬い岩を殴っているような衝撃を受けた。


 殴る度に機体の関節が黄色くなっていく。

 でも何度も殴るとマウンテンウォールの動きが鈍くなっていく。

 行ける! お腹を狙ってジャンプし殴りかかった。


『させはせん!』


 マウンテンウォールの装甲がパージされて四方八方に飛び散る。

 お腹の装甲が飛んで来て吹き飛ばされた。


「ぐっはあ!」


 地面に着地すると目の前には痩せた体型になったマウンテンウォールがいた。


『終わりはせん!』


 素早くなったマウンテンウォールがパンチを繰り出す。

 速くなっている!


 ギリギリで避けると今度は裏拳をぶつけてきた。

 また吹き飛ばされる。


「ぐううううううう!」


 プロトナイツの画面を見ると関節が赤くなっている。


 なりふり構わず僕を潰す気だ。

 下手にジャンプは出来ない。

 一瞬でも動きの軌道が単調になるとパンチを叩きこんでくるだろう。


 連続で繰り出されるパンチを避け、避けきれないパンチを蹴りでいなした。

 膝関節が赤く表示される。

 向こうは死ぬ気で攻撃してくる!

 走って接近しパンチを腕でいなしつつ更に接近した。


「うおおおおおおおおおおお!」

『グオオオオオオオオオオオ!』


 マウンテンウォールがぐらりとよろめいた。


「隙あり!」


 ジャンプをしながらお腹の位置に右アッパーを叩きこんだ。

 プロトナイツの関節がミシリと音を立てる。

 そして更にお腹に蹴りを叩きこみ後ろに飛んだ。


 着地しようとすると右脚がガクンと曲がり転倒した。

 くそ! 

 関節さえ持てば!


 同時にマウンテンウォールがドスンと倒れた。

 背中のコアからマウンテンが出て来てホバーボードに乗って森に逃げていく。


 立ち上がろうとすると左足もうまく動かない。

 プロトナイツがまた倒れた。

 ブルーモードが切れる前に、関節がイカレタか。



『マウンテンを撃て! 森に逃がすな!』


 マウンテンが魔法弾を躱し魔法弾の着弾する土煙を浴び、よろめきながら森に入っていく。

 マウンテンを逃がした。


 騎士の乗るナイツや白ウォーリアが倒れていった。

 みんな魔力酔いか。

 みんな苦しくなるまで魔法弾を撃ち続けて凄いと思う。


 画面を見るとハーフエッグに乗るみんなが飛び上がって喜び歓声を上げた。



 ◇



 東のビートルヒルを奪還した。

 マウンテンは民に優しかったようで思ったほど歓迎はされなかった。

 街の人は「支配者が変わるだけ」程度に思っているらしい。


 マウンテンウォールは回収され、カブトムシを取る用のウォーリアを残して王都への帰路に就く。

 トラックとハーフエッグが移動する間にサンを探した。

 部屋から出てこないようでよっぽどショックを受けているようだった。


 サンの事を考えてみた。

 サンは15才で騎士を務める天才だ。 

 でも魔力の増加には時間がかかりその事に悩んでいた。

 今まで魔力を使い切るように訓練を続けていたのは不安の裏返しだろう。


 僕が転生してリミッターの付いていないナイツを壊しサンはナイツで出撃出来なかった。

 シャトロクリムゾンと初めての戦いでサンは未完成のウインドイーグルで魔法弾を撃ちまくり魔力を使い果たし墜落した。


 機体の調子も悪かったんだろう。

 みんながサンに感謝した。

 でもサンは機体を壊したことを気にしていたようだ。


 西の都市を奪還する際はウインドイーグルの調整が後回しになりサンは出撃出来なかった。

 西の都市で帝国が攻撃を仕掛けてきた際は馴れない白ウォーリアに乗り込み隊長機に狙われてサンだけが機体を壊したと言って気にしていた。


 でも隊長機に狙われてしかも杖しか持っていなかった。

 杖を爆発させるのは悪い手ではなかったと思う。

 でもサンはその事も気にしている。


 そして今回ウインドイーグルで出撃して爪が壊れた。

 やっと完成したウインドイーグルで墜落しサンは落ち込んでいる。


 でもあの機体は欠陥だらけだ。

 メンテから爪が弱いと指摘を受けていた。

 今思えば起こるべくして起きた事故だ。

 サンのせいじゃない。


 そもそもだ。

 サンは機体に恵まれていない。

 サンの実力はファインさんも認めている。


 僕が色々とメンテにアイデアを出した。

 その事でナイツの後継機を優先する判断は間違っていないと思う。

 でも、サンにとっては活躍するはずの機体が使えないまま後回しにされ続ける結果となった。


 なにか、自信が持てる何かがあれば。

 僕に錬金術師の力があればサンに良い機体を作るのに。

 帰ったらメンテに相談しよう。

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