第13話

【王視点】


 画面を閉じると大臣に言った。

 周りには他の者も揃っている。

 私は泣きそうになり目頭を押さえた。


「ナリユキ殿の心にはより一層の配慮が必要だ。大臣よ、そうは思わぬか?」

「はい、賢王の先見の力、当たっていました」


「いかに魔力が高かろうとナリユキ殿はまだ15才、恐怖を感じながら自分自身の恐怖と戦っているのだ。あの顔、皆も分かったであろう? 無理に笑顔を浮かべ、我らに心配をかけぬよう配慮していた、だがあの引きつった笑顔は恐怖と戦う子供のようなけなげさであった。だが今はナリユキ殿にすがるしかない」


 家臣が私の想いに共鳴する。


「あんなにあどけない顔で無理に作った笑顔を向けられたら、誰だってわかります。ナリユキ様は今も恐怖と戦っているのでしょう」

「私の子供とナリユキ殿は同い年です。思わず子の顔が浮かびました」

「ナリユキ殿は今も、今もなお、恐怖に抗うように騎士と戦い続けています。ですが本当に対峙しているのは己の弱さでしょう」


「それだけにナリユキ殿には一層の配慮が必要、まさに賢王には未来が見えていたのでしょうな。ナリユキ殿が国を背負い追い詰められる今の現状を」

「皆に私の想いが伝わり嬉しく思う。ナリユキ殿の心を癒す手立てはないか? 何でもいい、思う事があれば言ってくれ」


「あの」

「言ってくれ」

「ハーレム、とか、どうでしょう? ナリユキ様はモテますし」

「うむ、ナリユキ殿の好みを調べるのだ、邪魔をせぬ範囲でな!」


「「すぐに取り掛かります!」」


 賢王はまた勘違いをしていた。




【ナリユキ視点】


 僕は毎日みんなと対戦を続けた。

 対戦にプロトナイツとアイスキャットの機体が追加され対戦用エッグが全部で5つ配置された。


 対戦用のエッグではなくプロトナイツの中で対戦を出来ないか聞いたら整備に支障が出るから後回しになるらしい。

 今はナイツの後継機を作る為に力を使っているようだ。


 プロトナイツを使えば騎士さんが操るナイツ4体を相手に余裕で勝利できる。

 プロトナイツはチートだと思う。 

 ブルーモードは特にチートだ。


 対戦相手がスノーさんかサンの時は攻撃を当てて重力魔法を発生させバストを揺らすのが快感になっていた。

 2人が重力を受けて可愛い声を漏らすとゾクゾクしてしまう。


 アイスキャット用の対戦エッグが1つ追加された。

 アイスキャット用はエッグが横向きになっていてバイクに乗るように無理な姿勢で搭乗する。

 試しに乗ってみたらうまく動かせなかった。


 今日はアイスキャットに跨って走る訓練をした。

 アイスキャットの運用は本来プロトナイツを運ぶ為に作られたようだ。

 スノーさんと一緒にエッグを降りて2人横に並んで座り水分補給をする。


「スノーさんはアイスキャットを操れて凄いですね。ネコの動きは難しいです」

「何度も練習したから」


 アイスキャットは脱出機能が無い。

 ウインドイーグルも脱出機能が無いようだ。

 そしてプロトナイツと同じでメンテナンス性が悪い。


「ナリユキ君、私を乗りこなしてね」

「え」


 スノーさんは言葉が足りない。

 まるでスノーさんの上に乗るように聞こえてしまう。

 でアイスキャットを乗りこなしてね、そういう意味だろう。


「はあ、はあ、それは、アイスキャットに、乗ると言う意味」

「あ、メンテが来た」


 ピュアがメンテを指差す。


「ナリユキ、ナイツの後継機の件で聞きたい事があってね」

「うん、すぐに行く」

「ごめんね。スノーも来て」

「うん」


 僕は騎士さんに一言声をかけてメンテの所に行った。




【騎士隊長ファイン視点】


 皆がエッグから降りて休憩する。


「隊長、ナリユキ殿はなんであんなにエッグに乗っていられるんですか? どんなに魔力があっても疲れます。普通は嫌になりますよ』

「集中力が切れても対戦を続けているのが凄い」


「分からないか?」

「分かりません」

「ナリユキ殿は我らに希望を与えようとしている。少し前の我らはみな絶望していた、だが今はどうだ?」


「そう言えば、明るくなったような?」

「お前の顔は前より明るくなっている」

「前よりは、そうですね。明るくなったかもしれません」


「昔の我らならどうすれば国を守れるかさえ分からなかった。魔装ゴーレムで訓練を行う事で錬金術師の新型機開発が遅れる。だが今はその気になれば何度も気軽に魔装ゴーレムの訓練が出来る」


「言われてみれば、たくさん訓練をすれば帝国のウォーリアを倒せるような気がしています」

「ナリユキ殿は無理をしている。無理をして我らに希望を見せている。ナリユキ殿は私の父上に似ているのだ。説教も批判もしない、ただ背中で見せてくれた父上のようだ」


「みんなの為にそこまで考えて!」

「考えてみろ、走るだけで重力の衝撃を受けて具合が悪くなるあのエッグの中で我らを導き続けている。普通は魔力が高くても対戦を続けられなどしない」

「で、でも、笑っていますよ?」

「そこも父上に似ている。苦しさを紛らわすようによく笑っていた。苦しければ苦しいほどにな」


「ナリユキ殿はエナジーポーションを飲みまくってますよね? 結局後から寝込むのに、アレも意味があるんですか?」

「そうか、分からないか」


「教えてください、ナリユキ殿が無そうとしている真実を!」

「変えようとしているのは我らの意識だ」

「「っつ!!」」


「背中で見せようとしているのだろう。努力とはこうあるべきだと、まだ我らにも出来る事はあるのだと、背中で語っているようだ」

「たしかに、具合が悪くなるのに、意味もなくナリユキさんがエナジーポーションを飲むわけがないですよね」

「ナリユキ殿は我らを照らす聖なる光だ」


 私はナリユキ殿を見送った。



【ナリユキ視点】


 錬金術師の休憩室に入るとサンがいた。

 サンの隣の席が空いていてサンが笑顔で椅子をポンポンと優しく叩いた。

 サンの隣に座ると僕の横にスノーさんが座り、目の前にはメンテが座る。

 そして錬金術師さんがずらっと座っていた。


「早速始めるよ、その前に説明をさせて」

「うん」

「実はね、ナイツの後継機を作る方向で設計が進んでいるんだけどプロトナイツの支援機の事でも悩んでいるんだ。プロトナイツの本来の運用目的はプロトナイツ1機をアイスキャットに乗せて、2機目をウインドイーグルとのドッキングで空から運んで」


「ドッキング! アニメン定番だよ!」

「ピュア、ちょっと黙って」


「3機目をナイツと連携させた隊と一緒に行動させて、陸、空、陸のナイツ部隊、この3つで一気に攻撃を仕掛ける想定だったんだ」

「うん、出来たら強力だよね」


 敵は空と地上の2部隊、合計で3方向から高速で迫って来る敵に対処する必要がある。

 3方向から魔法弾を撃たれてプロトナイツ3機に接近されてブルーモードを使われたらきついだろう。


「でも結果は違った。今プロトナイツを扱えるのはナリユキだった。そしてナリユキは思いのほか継続戦闘能力が高い。更にナリユキの魔力が高くて足も速いから運ぶ意味が薄い。そしてナリユキは近接特化だ。さらに言うと空からプロトナイツを運ぶはずのウインドイーグルは飛ぶだけでかなりの魔力を消費してしまう上完成が後回しになっているよ」

「あらゆる想定が崩れてるんだね?」


 今まで魔装ゴーレムを運用した事が無くてどうしたらいいか探り探りなんだろうな。


「そう、で、ナリユキは支援機の在り方についてどう思う?」

「あり方? う、うーん」

「ナリユキさん、味方にどうして貰えれば助かりますか?」

「魔法弾で遠距離攻撃のカバー、かな。僕って近接しか出来ないのと近接が近くにいると間違って味方を攻撃してしまうかもしれない」


「となれば、支援機の強化よりナイツの後継機を完成させた方が支援になるかな?」

「そう、だと思う」


 ナイツはメンテナンス性能が高い。

 対してプロトナイツン支援機であるアイスキャット、ウインドイーグルはメンテナンス性能が低い。

 更にアイスキャットとウインドイーグルは脱出機能が無い。


「ナイツ後継機、皆に聞き取りをしたら出力を上げて欲しい、そういう意見が多かったんだ。他に何かないかな?」

「ナイツって、盾・剣・杖の中から2つを選んで手に持って戦ってるよね? 杖を肩にセットして盾・剣・杖を全部装備出来ないかな?」


 みんながピンと来ていない顔をした。

 きっと魔装ゴーレムは人を大きくした物として認識しているんだろう。

 実際に魔装ゴーレムは人が実際に動く操縦者のイメージをトレースして動かしている。

 僕が格闘タイプなら魔装ゴーレムも格闘しか出来ない。

 みんなはなんで肩に付けるの? と思っている。


「肩に取りつけるだけなら出来るけど、意味があるのかな? 杖で持って撃てないと扱いにくくならない?」

「すぐに出来るならやってみましょう。私が乗っているナイツに付けてみてください」

「サンなら、マルチタスクが得意だから適任だね」


 その日の内に杖をセットしたナイツが完成してサンが乗り込む。

 右手に剣、左手に盾を持って訓練場に立つ。

 背中にバックパックが追加されており両肩の上から杖が前を向くように設置されている。


 その前にはファインさんの乗るナイツが剣と杖を持って立つ。

 みんなが訓練を見守る。


『行きますよ。攻撃しますよ!』

『いつでもいい。かかってこい』


 サンの乗るナイツが両肩の杖から魔法弾を放つ。

 ファインさんのナイツがステップを踏みながら魔法弾を放った。


 サンが盾を構えて魔法弾を防ぎつつ魔法弾を撃ち続ける。

 

『おお、サンの方が優勢か』

『サンだから杖を2つから魔法弾を撃ちながら盾に魔力を通せるんだ。他の騎士には中々マネできない』

『隊長が接近した。勝負はここからだ』


 ファインさんの剣をサンが盾で受け止め剣で攻撃するとファインさんが後ろに下がって魔法弾を撃つ。

 サンが肩の杖から魔法弾を放ち応戦する。

 王が対戦を止めた。


『そこまでだ! このままではナイツを破損させる! ナリユキ殿が言いたかったことが分かった。採用の方向で進めよ!』

『ナリユキさん、やりましたよ!』


『だが、肩に付けた杖をあそこまで自在に操れるのはサンだからではないか? ファイン、どう思う?』

『騎士の皆にサンのナイツを実際に操って貰いたいです』

『うむ、今すぐに試すのだ』


 騎士さんがサンのナイツに乗り杖で魔法弾を放つ。

 結果、ナイツの左肩にのみ杖を取り付ける事が決まる。


 ナイツの後継機を作る前に即席で戦力をアップさせることに成功した。

 欠点として杖・剣・盾を装備し重くなるデメリットはあった。


 だがそれ以上に剣と盾を持ちながら魔法弾を撃ち敵に迫る戦術の効果が高い事が分かった。

 みんな笑顔で雰囲気がいいな。

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