第4話

 プロトナイツが街を走り地面を蹴る度に衝撃が伝わってくる。

 なんだろう、タッパーに入れられてシェイクされるネズミの気分だ。

 足を踏み出すたびにビルから落下するような衝撃を感じる。

 ビルから落ちた事なんて無いんだけどね。


 何とかなっているのは僕の魔力が高くて体を守ってくれているおかげだ。

 もしも魔力が無ければ衝撃で死んでいただろう。


『素晴らしい! ナイツよりもさらに速い!』

『スライムスーツ無しであの速度とは、もはや化け物ですなあ』

『ナリユキ様のお顔を見て! 初めて魔装ゴーレムに乗ったとは思えない佇まいだわ』


 マーカーを見ているだけなんだけどね。

 僕の肩に乗ったピュアもケロッとしている。

 こいつは魔力の塊みたいな存在だ。

 衝撃に強いのか?

 ピュアが皆に聞こえない小さな声で言った。


「騎士を助ければ騎士になれるだろうね」 

「騎士なんて今はどうでもいい」


『何と! 騎士の身分よりも皆を助ける事に集中したいとナリユキ殿はそう言っているのだ!』

『『ナリユキ様あああああ!』』


「騎士になれば、ハーレムルートだよ。女神様が言っていたよね? 騎士はモテる」

「なん、だと!」


「ハーレム」

「く、そんなうまい話が」

「おっぱい」

「くう!」


「見て、最初は冷静そうに見えたメンテがあんなに喜んでおっぱいを揺らしているよ」


 メンテの画面を見る。


『僕のプロトナイツが動いているよ!』


 メンテがジャンプするとバストがバインバインと踊る。


「今だけは頑張る!」


 どうせ何もしなければ死ぬ。

 負ければ死ぬんだ。

 ならいい未来の為にもがいてやる!


『みんなを助ける為にあそこまで頑張って、素敵すぎるわ!』

『絶望が希望に変わっていく』

『ナリユキ様とピュア様は私達の光よ』


 街を走るとナイツ1体と戦う黒い魔装ゴーレムが1体現れた。

 敵を見ると人型で全体的に丸いフォルムをしていた。

 頭はヘルメットのように丸く肩の装甲も丸い。

 右手には斧、左手には杖を持っていた。


 ナイツの方は剣と盾を持っている。


『ウォーリアだ、黒いのは全部敵だよ! 壊して!』

「黒いのが敵ですね?」

『そう!』


 分かりやすい白いナイツが味方で黒いのが敵か。



「拳だけで行けるのか?」

「大丈夫、拳に魔力を流して」


 プロトナイツの右手を魔力が覆った。


「パンチだ」

「おりゃあああああ!」


 斧を振りかぶったウォーリアの横腹に死角からパンチを撃ち込んだ。

 ウォーリアの腹部分が光りくの字に吹き飛ぶと建物に激突し地面に倒れて動きを止めた。

 パイロットは、気絶したっぽい。


『バカな! たった1撃でウォーリアを撃破したのか!』

『凄いわ、弱点である胴体を的確に攻撃するなんて!』

『胴体を攻撃すると魔力を大量に消費する、その事を一目で見抜いたんだ!』

『まさに天才ですな』


『あれだけの魔力を得るには死ぬほどの努力が必要だろう。天才で片付けるのはナリユキ殿に失礼だろう』

『これは、ナリユキ殿、失礼しました』


 横から不意打ちで倒しただけなんだよなあ。

 追い詰められたこの状況が皆をおかしくしているだけだろう。


「……いえ、それよりも騎士さんは大丈夫ですか?」


 騎士さんの顔が画面に映った。


『はあ、はあ、はあ、はあ、大丈夫です』


 うわあ、絶対大丈夫じゃない!

 イケメン騎士さんがダラダラと汗を掻いて苦しそうにしている。

 酔ったように顔が赤い。

 これが魔力酔いか。

 騎士さんの横画面を見るとメンテがジャンプをして喜んでいる。


『僕のプロトナイツが敵を倒したよ!』


 バストが激しく上下に揺れた。

 躍動感が凄い。

 騎士さんに視線を戻すと騎士さんが驚愕している。


『な! スライムスーツ無しでここまで来たのですか!』

『今その話は後だ。ナリユキ殿についていく事は出来るか?』

『しかしスライムスーツ無しでは命が、く、出来ます!』

「命……」


 今のところは大丈夫だ。

 でも、もし攻撃を受けたらどうなるんだろ?


『うむ、次のポイントに進むのだ』

「分かりました」

『はい!』


 僕は走り出した。


『く、帝国め、騎士でありながら市街地で民の事を考えずに戦うとは!』


 ピュアが耳元で囁く。

 

「騎士は民を殺さないんだ。昔の騎士道みたいなイメージだよ」

「戦国時代みたいな感じ?」

「そうそう」


「市街地戦闘って普通の状況じゃないんだね」

「うん、そのまま走ろう」


『く、お供します!』


 後ろからナイツが1体付いてくるけどどんどんナイツを引き離し先行する。


『く、早い! スライムスーツ無しで、あそこまでとは!』


 王様があえてゆっくりと、しかし大きな声で言った。


『ナリユキ殿はな、騎士を1人たりとも死なせたくないのだ。だからこそスライムスーツに着替える時間を惜しんだ。そして即プロトナイツに乗り駆けつけたのだ。お前が今生きているのはナリユキ殿のおかげだ』


『そ、そうだったのですね。く、はあ、はあ、ナリユキ殿に、くう、ついていきます』

「無理しなくても大丈夫です、戦闘の後休んでいませんよね?」


『ナリユキ殿、自分に厳しく、しかし他人にはなんとお優しい。私も騎士としてそうありたいと思っております』

「い、いえ、そうじゃなくて、無理しなくて大丈夫ですから!」


『命を懸けたその心意気、しかと受け取りました! 魔力が切れ倒れるまでナリユキ様についていきます。うおおおおおおおおおおおおおお!』


 ナイツの速度が上がった。


『背中で語り騎士を更なる覚醒へと導くか。流石ナリユキ殿だ』

『『わああああああ! ナリユキ様ああ!』』

「い、いや、ちが」


「ウチのナリユキはまだまだ活躍するよ!」


 ピュアが僕の肩に乗ったまま立ち上がりシャドーボクシングをするとそのバストがバインバインと揺れた。


「ナリユキ、ハーレム」

「く!」

「ハーレム」

「……頑張ります」


 僕は街を走った。

 目の前には5体のウォーリアがナイツ3体を扇上に包囲して杖から魔法弾を放ちつつ接近し斧で攻撃する。

 僕は後ろからウォーリアに迫った。


 だがその時異変が起きた。

 ナイツが魔法弾を連続で受け斧の攻撃を受けると上半身と下半身に分離して中からエッグが出てきた。

 そしてエッグが後ろに飛んでいく。


「あれ、何?」

『あれは緊急脱出だから気にしないで! 今はウォーリアを倒して!』


 その時ウォーリアの上に大きな画面が発生して敵の顔が映し出された。

 そして敵が話を始める。

 こうやって話が出来るのか。


『敵の援軍か!』

『お前たち3体で援軍を止めろ!』

『『おう!』』


 振り返ろうとするウォーリアの背中にパンチを叩きこむと1体が前に倒れ動かなくなった。

 そして2体目と3体目も態勢を立て直す前に腹パンチで倒す。

 残った2体が僕の方を向く。


『化け物がああああああ! 2体同時攻撃をかける!』


 その時後ろからナイツの杖から魔法弾が放たれ敵がひるんだ。


『挟み撃ちとは、卑怯、ぐはあああ!』

「せい! せい!」


 2体にパンチを叩きこみ倒した。


「さっきまで囲んで攻撃しておいて卑怯とか、無いわあ」


 でも、まともに戦っていないのは確かだ。

 戦闘中の横から奇襲攻撃、後ろからの奇襲攻撃。

 攻撃を受けている敵を攻撃、全部真正面から正々堂々と戦ってないぞ。


『初陣で6機撃破とは!』

『何と、初陣でエースに至ったか!』


「6機撃破。エースおめでとう」

「ん?」


 そう言えば戦闘機だと5機倒せばエースか。

 ここでも同じような感じなのか。

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