第21話 波乱の三人
「わたしも……やってあげてもいいけど」
誰もが嫌がる、押し付け仕事の魔物室清掃。
最後の一人を決める場面で、レイダが手を挙げた。
すると、リベルが口を開く。
「ふーーーん?」
「な、なによ! 誰も挙げないからやってあげるだけで──」
「本当にそうでしょうか」
「……っ!」
ニヤリとするリベルに、レイダは顔をひきつらせる。
「ワタシとオルト様が二人になるのを心配したのでは?」
「そ、そんなわけないでしょ!」
「でしたら、当日はイチャついても構いませんよね?」
「~~~っ!」
レイダは図星のようだ。
だが、ここで嫌と言えないのもまた彼女らしい。
「べ、別に好きにしたらいいじゃない! ふん!」
「はい、そうします♡」
そんな様子を、間の席に挟まるオルトは黙って見ていた。
(大丈夫だよな、これ……)
そんなこんなで、週末を迎える──。
★
週末、学園の魔物室。
「うし、さっさと終わらすかー」
腕まくりをし、気合いを入れるオルト。
だが、その腕にピタっとくっつく者がいる。
「オルト様のお肌、あったかい……」
「こらこらこらー!」
「あら?」
ピンクの髪を束ねたリベルだ。
彼女はこの数日の間も、ことあるごとにスキンシップをしてきていた。
また、そんな時のやり取りも決まっている。
「い、一旦離れよう!」
「嫌です♡」
「なんで!?」
毎回オルトが追い払おうとするが、リベルは離れない。
もはや見慣れた光景だ。
「ワタシたちはすでに約束された仲。こんなので恥ずかしがっていてはダメですよ」
「誰が約束された仲か! ……はっ!」
そんな中、オルトは背後から“殺気”を感じ取った。
そろーりと振り返ると、レイダと目が合う。
しかし──
「つーん」
「……ッ!?」
プイっと顔を逸らされた。
(はぅあっ!)
“推しに無視される”。
それがオルトにどれだけのダメージを与えることか。
良い感じに友達になれたはずが、タッグ戦の序盤に後戻りしているようだ。
だが、レイダもわざとではない。
(ったく、デレデレしちゃって……)
なんとなく、二人を見ていることを悟られたくなかった。
自分が
「オルト様、行きましょ~」
「だからくっつかない!」
それでも、二人の様子はつい目で追ってしまう。
アタックされているのがオルトだからだろう。
また、リベルの言葉も少し気になったようだ。
「……腕、あったかいのかな」
レイダは、しばらくオルトの腕を横目で見つめていた。
「よし、そろそろお昼にしよう」
午前分の作業を終え、三人は休憩用ベンチに座る。
なんだかんだで成績最上位の三人だ。
多少の問題すらなく、作業は順調に進んでいた。
──関係とは裏腹に。
「ちょっとリベルさん? オルトにくっつきすぎじゃないかしら」
「いえいえ、レイダさん。これは心の距離間を表しているのです」
「はあ!?」
リベルとレイダは、何度目からの言い争いをしていた。
間にオルトを挟んで。
(レイダの隣は嬉しいけど……気まずい)
どちらも超がつくほどの美人だ。
誰もが
(花のトゲが刺さりまくってるもん……)
推しの隣で嬉しい反面、喧嘩はしないでほしい。
だが、口出しをすれば、激化するのは目に見えている。
結果、オルトの取れる選択肢は、早くご飯を食べることのみだった。
「ご、ごちそうさま!」
「「……!」」
お昼を早々に食べ終えたオルトは、バッとベンチから立ち上がる。
争いの火種が自分だと自覚しているからだ。
「あの、俺はお手洗いに行くので……では!」
「「あ」」
そうして、さっさと逃げ出した。
「どうするかなあ」
お手洗いで時間を潰し、オルトは時間ギリギリで戻ろうとする。
しかし、その顔は浮かばれない。
悩みの種は、もちろん二人の事だ。
中でも、レイダの態度が気になっていた。
「どうしてあんなに怒っているんだろう……」
オルトは、原作をこれでもかというほど周回している。
だがそれでも、今のようなレイダは見たことがない。
どんなに手を尽くしても見られなかった、“未知のレイダ”なのだ。
これにはさすがの原作知識も通用しない。
「仲良くなれたと思ったのに……」
タッグ戦を経て、晴れてレイダとは友達になれた。
だが、リベルがグイグイ来てからは、どこか態度がおかしい。
鈍感なオルトも違和感には気づいていた。
これも、普段から推しを眺めている
……肝心の女心は掴めていないようだが。
「分からないと言えば、リベルの方もだよな」
そして、小国の王女リベル。
彼女の立ち回りも原作とまるで違う。
オルトは大いに頭を悩ませていた。
「!」
そんな中、ぴくりと神力探索の範囲に誰かが引っ掛かる。
レイダでもなくリベルでもない、
だが、その近くにリベルの存在も感知する。
すると、自然に想定するのは嫌な事態。
「まさかリベルは、誰かに操られてるのか? ……ッ!」
オルトはすっと気配を消し、地面を
魔物室より、少し離れた場所。
「経過は順調のようですね」
キリっとした目の女子生徒が、口を開く。
それに答えたのはリベルだ。
「ええ、
「リベル様は外面は良いですからね」
「あら、失礼な言い方ね」
口ぶりから、二人の関係はおそらく上司と部下。
王女であるリベルと、密偵的な役割の者だろう。
だが、リベルの口調がオルトの前と違う。
こちらが本来のリベルなのかもしれない。
「とにもかくにも、ワタシはなんとしてもやり遂げるわ」
「はい。ですが、一つ良いでしょうか」
「なにかしら」
すると、密偵はリベルに尋ねた。
「彼は平民のようですが、よろしいのでしょうか」
「……だからこそよ。どこの王族の
「なるほど。おっしゃる通りです」
考えを述べたリベルは、ふっと上を向く。
「ワタシたちみたいな小国には、
「はい」
「たとえ自分を偽ってでも、“女”を使ってでも。
覚悟を決めた目を浮かばせながら。
「立派な国を作るために」
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