第21話 波乱の三人

 「わたしも……やってあげてもいいけど」


 誰もが嫌がる、押し付け仕事の魔物室清掃。

 最後の一人を決める場面で、レイダが手を挙げた。


 すると、リベルが口を開く。


「ふーーーん?」

「な、なによ! 誰も挙げないからやってあげるだけで──」

「本当にそうでしょうか」

「……っ!」


 ニヤリとするリベルに、レイダは顔をひきつらせる。


「ワタシとオルト様が二人になるのを心配したのでは?」

「そ、そんなわけないでしょ!」

「でしたら、当日はイチャついても構いませんよね?」

「~~~っ!」


 レイダは図星のようだ。

 だが、ここで嫌と言えないのもまた彼女らしい。


「べ、別に好きにしたらいいじゃない! ふん!」

「はい、そうします♡」


 そんな様子を、間の席に挟まるオルトは黙って見ていた。


(大丈夫だよな、これ……)


 そんなこんなで、週末を迎える──。





 週末、学園の魔物室。


「うし、さっさと終わらすかー」


 腕まくりをし、気合いを入れるオルト。

 だが、その腕にピタっとくっつく者がいる。


「オルト様のお肌、あったかい……」

「こらこらこらー!」

「あら?」


 ピンクの髪を束ねたリベルだ。

 彼女はこの数日の間も、ことあるごとにスキンシップをしてきていた。

 また、そんな時のやり取りも決まっている。


「い、一旦離れよう!」

「嫌です♡」

「なんで!?」


 毎回オルトが追い払おうとするが、リベルは離れない。

 もはや見慣れた光景だ。


「ワタシたちはすでに約束された仲。こんなので恥ずかしがっていてはダメですよ」

「誰が約束された仲か! ……はっ!」


 そんな中、オルトは背後から“殺気”を感じ取った。

 そろーりと振り返ると、レイダと目が合う。


 しかし──


「つーん」

「……ッ!?」


 プイっと顔を逸らされた。


(はぅあっ!)


 “推しに無視される”。

 それがオルトにどれだけのダメージを与えることか。

 良い感じに友達になれたはずが、タッグ戦の序盤に後戻りしているようだ。


 だが、レイダもわざとではない。


(ったく、デレデレしちゃって……)


 なんとなく、二人を見ていることを悟られたくなかった。

 自分が嫉妬しっとしていることに、自分で気づきたくなかったのだ。


「オルト様、行きましょ~」

「だからくっつかない!」


 それでも、二人の様子はつい目で追ってしまう。

 アタックされているのがオルトだからだろう。

 また、リベルの言葉も少し気になったようだ。


「……腕、あったかいのかな」


 レイダは、しばらくオルトの腕を横目で見つめていた。






「よし、そろそろお昼にしよう」


 午前分の作業を終え、三人は休憩用ベンチに座る。


 なんだかんだで成績最上位の三人だ。

 多少の問題すらなく、作業は順調に進んでいた。

 ──関係とは裏腹に。


「ちょっとリベルさん? オルトにくっつきすぎじゃないかしら」

「いえいえ、レイダさん。これは心の距離間を表しているのです」

「はあ!?」


 リベルとレイダは、何度目からの言い争いをしていた。

 間にオルトを挟んで。


(レイダの隣は嬉しいけど……気まずい)


 どちらも超がつくほどの美人だ。

 誰もがうらやむ両手の花だが、オルトは怯えていた。


(花のトゲが刺さりまくってるもん……)


 推しの隣で嬉しい反面、喧嘩はしないでほしい。

 だが、口出しをすれば、激化するのは目に見えている。

 結果、オルトの取れる選択肢は、早くご飯を食べることのみだった。


「ご、ごちそうさま!」

「「……!」」

 

 お昼を早々に食べ終えたオルトは、バッとベンチから立ち上がる。

 争いの火種が自分だと自覚しているからだ。


「あの、俺はお手洗いに行くので……では!」

「「あ」」


 そうして、さっさと逃げ出した。






「どうするかなあ」


 お手洗いで時間を潰し、オルトは時間ギリギリで戻ろうとする。

 しかし、その顔は浮かばれない。


 悩みの種は、もちろん二人の事だ。

 中でも、レイダの態度が気になっていた。


「どうしてあんなに怒っているんだろう……」


 オルトは、原作をこれでもかというほど周回している。

 だがそれでも、今のようなレイダは見たことがない。


 どんなに手を尽くしても見られなかった、“未知のレイダ”なのだ。

 これにはさすがの原作知識も通用しない。


「仲良くなれたと思ったのに……」


 タッグ戦を経て、晴れてレイダとは友達になれた。

 だが、リベルがグイグイ来てからは、どこか態度がおかしい。

 鈍感なオルトも違和感には気づいていた。


 これも、普段から推しを眺めている賜物たまものだ。

 ……肝心の女心は掴めていないようだが。


「分からないと言えば、リベルの方もだよな」


 そして、小国の王女リベル。

 彼女の立ち回りも原作とまるで違う。

 オルトは大いに頭を悩ませていた。


「!」


 そんな中、ぴくりと神力探索の範囲に誰かが引っ掛かる。

 レイダでもなくリベルでもない、第三者・・・だ。

 だが、その近くにリベルの存在も感知する。


 すると、自然に想定するのは嫌な事態。


「まさかリベルは、誰かに操られてるのか? ……ッ!」


 オルトはすっと気配を消し、地面をった。

 






 魔物室より、少し離れた場所。


「経過は順調のようですね」


 キリっとした目の女子生徒が、口を開く。

 それに答えたのはリベルだ。


「ええ、オルト対象おとせる・・・・のも時間の問題よ」

「リベル様は外面は良いですからね」

「あら、失礼な言い方ね」


 口ぶりから、二人の関係はおそらく上司と部下。

 王女であるリベルと、密偵的な役割の者だろう。


 だが、リベルの口調がオルトの前と違う。

 こちらが本来のリベルなのかもしれない。


「とにもかくにも、ワタシはなんとしてもやり遂げるわ」

「はい。ですが、一つ良いでしょうか」

「なにかしら」


 すると、密偵はリベルに尋ねた。


「彼は平民のようですが、よろしいのでしょうか」

「……だからこそよ。どこの王族のあかも付いていない。引き入れるにはうってつけだわ」

「なるほど。おっしゃる通りです」


 考えを述べたリベルは、ふっと上を向く。


「ワタシたちみたいな小国には、オルトあの者は必要よ」

「はい」

「たとえ自分を偽ってでも、“女”を使ってでも。オルトあの者をこちら側に引き入れてみせるわ」


 覚悟を決めた目を浮かばせながら。


「立派な国を作るために」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る