第19話 初めてのお友達

 「「……」」


 夜の第三公園。


 学園端のこの場所で、ベンチに二人の男女が座っていた。

 レイダとオルトだ。


「「……っ」」


 顔はお互いに外側を向き、一向に合わせようとしない。

 だが、喧嘩をしたわけではない。

 どちらかと言えば、緊張しているのである。


((なんて話しかけよう……))


 タッグ戦の後、レイダは「公園に集合」と口にした。

 会話の流れから、オルトもさすがに要件は分かっている。


(これって友達あれの話だよな!?)


 しかし、オルトからは持ち掛けられない。


 万が一「冗談ですけど?」みたいな返事をされれば二度と立ち上がれないし、そもそも推しと友達になろうなどと言うことすら恐れ多い。

 タッグ戦の後、「例の件は……」と話しかけてからレイダがおかしくなったため、若干後悔すらしているぐらいだ。

 

 だが、それはそれでレイダを困らせている。


(あーもう、察しが悪いわね!)


 外側を向くレイダの顔は、キっと怖い目を浮かべていた。

 頬杖ほおづえをつき、自分の顔で指をトントンさせている。


友達それの話しかないでしょー!)


 互いに強く意識をしている相手だ。

 ゆえに、思春期の両片想い男女のような立ち回りにおちいっていた。

 初心うぶすぎるのも考えものだ。


「「……」」


 しかし、このまま時間が過ぎるのももったいない。

 ここは男を見せるため、オルトから口を開いた。


「明日の席替え楽しみだなーなんて、ははは……」

「……」


 定期的な席替え。

 成績順に再編される席は、明日発表のようだ。

 二人にとって外さない会話ではある。


「……」

「……っ」


 だが、それでも返事のないレイダに、オルトは少し不安になる。


「あ、あの、レイダさん?」

「……っ!」


 さすがにまずいと思ったのか、レイダもちらりと振り返った。

 すると、思わず笑みがこぼれる。


「って、なによその顔」

「ふえ?」


 オルトの顔が、“ひょっとこ”のようになっていたようだ。

 レイダは抑えきれず、ついに吹き出す。


「ちょっ、変な顔しないでよ。ふふっ、あはははっ!」

「レイダ!?」


 オルトは、あまりの緊張でおかしくなっていた。

 それを察したレイダは思わず笑ってしまう。


(なんだ、こいつ緊張してただけじゃない)


 そう思うと、心はすっと楽になる。


「そうね。楽しみだわ」

「……! うん!」


(二人して緊張して、ほんとバッカみたい)


 なんとなくいつもの口調に戻れた気がした。

 そうなれば、自然と一番したかった会話もできる。


「──ねえ」

「ん?」

「わたし達って、と、友達なのよね?」

「……!!」


 わざわざ確認を取るのも、レイダらしい。

 彼女が勇気を持って話してくれたのだ。

 オルトもここで茶化しはしない。


「う、うん。えと、その……よろしく」

「~~~っ! ええ……!」


 オルトが恥ずかしながらに出した手に、レイダも応えた。


(わたしの初めての友達……っ)


 改めて認識すると、ほおが少し熱を帯びる。

 嬉しさと同時に、胸が高鳴る想いがあった。

 

「ねえ、だったら今度──え?」


 だが、オルトの方は胸が高鳴り過ぎていた・・・・・・・


「う、うーん……」

「ちょ、アンタ!? うわわっ!」


 オルトは目を回しながら、レイダの方に倒れてくる。

 レイダはとっさに抑えるも、恥ずかしさから思わず突き放しそうになってしまう。


 だが、その手はピタっと止まった。


「お、推しと友達に……」

「……!」


 “推し”の意味は分からない。

 それでも、自分と友達になれて嬉しいことは伝わってきた。 

 だったら、このまま放っておくわけにもいかない。


「……と、友達なら、これぐらい当然よね」


 顔をかああっと赤くさせながら、オルトの顔をすっと下に持ってくる。

 “膝枕”に乗せてあげたのだ。


 すると、相当気持ち良かったのか、オルトは寝言をつぶやいた。


「ふふ、レイダ……」

「~~~っ!」


 レイダの顔が沸騰ふっとうしそうになる。

 今すぐ蹴とばしたい気持ちでいっぱいだったが、さすがに控えた。

 寝ている相手に手を出すほど、レイダも鬼畜じゃない。

 

「ったく、変な夢見てるんじゃないわよ……バカ」


 その後、目を覚ましたオルトはやけに目覚めが良かったという──。





 次の日、聖騎士学園。


「お前ら、この席順に並び替われー」


 朝の時間、ヴァリナ教官が紙を貼り出す。

 初月の成績が反映され、席替えを行われるようだ。

 

 黒板にぞろぞろと生徒たちが集まる中、オルトは目を見開いた。


「俺こんな前ですか!?」

「ああ、お前の減点は消えたからな」


 オルトは入学式をすっぽかし、大幅減点の罰をもらっていた。

 だが、初回の席替えまでだったようだ。

 

 減点がなくなり、入学からの成績が反映された。

 そんなオルトの席は──“三位”。

 二位であるレイダの一つ後ろであった。


「ア、アンタ、わたしが変わらない間に……」

「いやいや、俺は悪くない!」

「フン。……ったく」


 ぷるぷると拳を震わせたレイダだが、その内ぷいっと目を逸らす。

 すると、振り返り際に宣言した。


「抜かせるものなら、抜かしてみなさいよ」

「……! 望むところだよ」


 ようやく上がってきたのが嬉しかったようだ。

 ひとまずは平和的解決である。


 しかし、本当の災難はここからだった。


「よいしょ」


 オルトは三位の席に引っ越してくる。

 すると、後ろから・・・声をかけられた。


「やっと来られたのですね」

「ん?」


 その席に座るのは、現在“四位”の者。

 オルトが顔を上げると、可憐な少女がふふんっとこちらを見ている。


「オルト様、いえ」

「!?」


 少女はそのまま──ガバっと腕に抱き着く。

 彼女は“四新星”が一人にして、原作メインヒロインの一人。

 

「ワタシの王子様♡」

「ええええええ!?」


 王女リベルであった。

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