第17話 悪人貴族ヴォルク

 「──強かったわね」


 中間地点にて、レイダがつぶやく。


 同時に、右手の【おう】をふっと消した。

 これ以上は必要ないからだ。


 レイダは、ちらりと下の方に視線を移す。


「正直、予想以上だったわ」

「うぐっ……」


 レイダと対照的に、倒れているのはルクス。

 複数回の攻防の末、レイダが勝利したようだ。


(彼がじゃなかったら、危なかったかもしれない)

 

 二人の勝敗を分けたのは、経験値の差。

 唯一無二の神器【光の剣クラウ・ソラス】を具現化させたルクスだが、神器を使った戦闘経験は無かった。


 加えて、実は勝因はもう一つ。

 今のレイダは、原作時点よりも強い・・・・・・・・・


「……アイツはどうなっているかしら」


 原作のレイダは、ずっと一人で剣を磨き続ける。

 だが、この世界には追いつきたい人物オルトがいる。

 オルトの存在が、レイダの強さを加速させていた。


「信じてるわよ」

 

 と、そんな事は知るはずもないが、レイダは勝利を収めた。

 そのまま前方に向かって駆け出す──。




 

 レイダが勝利する、少し前。


「お前は“転生者”かって聞いてんだよ」

「……!?」


 ここは最終防衛ライン。

 フラッグは目と鼻の先だ。

 そんな中で、悪人貴族のヴォルクは突然問いかけた。


 さすがのオルトも身構える。

 

「な、なにを言って……」

「誤魔化しは効かねえ。あー、安心しろ、そこのカメラはぶっ壊してある」

「……っ」


 会話の様子は誰にも見聞きされない。

 答えさせる準備は万端というわけだ。

 むしろヴォルクは、この舞台を用意していた・・・・・・と言う方がふさわしい。


 ルクスに神器を教えたのも。

 ルクスとレイダが戦うよう仕向けたのも。

 全ては、ここでオルトを確かめるためだった。


「驚いたぜ。初日から意味分かんねえムーブをする奴がいると思えば、メインキャラでもねえ」

「……」

「そこで身を潜めていたが、やっと気づいたんだよ。お前も転生者なんだってな」


 対して、オルトにも違和感はあった。

 まず、入学試験でレイダが首席じゃなかったこと。

 それは自分の介入のせいだと思っていたが、他にも転生者がいたなら話は別だ。


 それに、タッグ戦の直前でオルトをにらんでいたこと。

 あの時すでに、この状況を考えていたのだろう。

 

「だから入学試験では、お前が首席だったのか」

「ははっ、そうだな。俺も本来通り二位で通過しようと思ったんだが、存外相手が弱くてな。つい一位になっちまった」


 物語ではよくある“実力隠し”。

 そのメリットは、未来を知っていることだ。


 ある程度、原作通りに物語を進めれば「先の展開を知っている」という、未来予知チートを保持し続けられる。


 だが逆に、シナリオを崩壊させてしまえば、先の展開は分からない。

 それは、自らゲーム知識という最大の武器チートを手放すことと同じ。


 これを心得ているため、オルトも控えめに立ち回っている。

 ヴォルクもそれを理解しているのだろう。

 本当は、さらに高得点で試験通過も出来たということだ。

 

「俺が転生者だとして、どうするつもりだ?」

「あ? そんなもん決まってるだろ」


 オルトの問いに、ヴォルクは口角を上げて宣言した。


「“格付け”だよ」

「……!」


 ニヤリとした表情のまま、声高らかに続ける。


「俺は“悪役転生”だ。それだけで言いたい事が分かるだろ?」

「……っ!」


 ──悪役転生。

 物語の悪役に転生し、自分の道を突き進む展開である。

 多くは“大いなる才能”を持って生まれ、思うがままに覇道をく。


 かくいうヴォルクも、才能という点では飛び抜けている。

 その才能と原作知識を使い、ヴォルクも本来より数段強くなっているようだ。


「それに比べてお前は可哀想かわいそうだなあ? 誰だそのモブは!」

「……」

「よちよち頑張って神器具現化マテリアライズを習得したみてえだが、素のスペックが違えんだよ!」


 ヴォルクはこれでもかとオルトを挑発する。

 それでも、オルトは冷静に質問を重ねた。


「お前はその悪役転生で何をしたいんだ?」

「ハッ、さあな。この一か月はお前を見極めるために身を潜めてきたが、ここからは好きにやらせてもらう」


 すると、ヴォルクは悪い笑みを浮かべる。


「ま、手始めに学園編のボスでも殺そうかなあ?」

「なんだと!」


 その言葉にはオルトも目を開く。

 学園編のボス──すなわちレイダのことだ。


「お、やっぱ怒ったか! ははっ、マジであれが推しなのかよ! センスねえ!」

「お前……!」

「だってそうだろ? 最後は闇ちすんのに何で生かしておくんだよ」

「……っ!」


 言っている事は間違っていない。

 だが、オルトは自分の考えを示す。


「人は変えられる。レイダは闇墜ちさせない!」

「はあ? どんなルートでもあの女は救えねえだろ」

「ここはゲームじゃないだろ!」

「ゲームだよ」

「!」


 すると、ヴォルクは神器具現化マテリアライズした。

 その手に現れるのは──漆黒の剣。

 神器【どうの黒剣】だ。


「だから圧倒的才能の前には勝てねえ。俺とオルトお前のようにな」

「……試してみるか?」

「ハッ! 話になんねえよ、そのしょぼい神器じゃなあ!」

「……!」


 ヴォルクは地面をり、オルトに迫る。

 オルトも咄嗟とっさに受け止めるが、その速さには驚きを隠せない。


(こいつ、やっぱり……!)


 想定していたより、数倍速かったのだ。

 現時点の同級生では、明らかにオーバーパワーである。

 これも悪役転生の鉄板だ。


「努力してやったよ。この才能が楽しくて楽しくてなあ!」

「……っ!」

「オラどうした! そんなもんか、クソモブ!」


 オルトを見下しているのか、ヴォルクはそのまま押し切ろうとする。

 何のフェイントも加えず、ただ上から叩き潰すように。


 だが──


「ああ、こんなもんだよ」

「……ッ!?」


 オルトがガキンっとヴォルクの剣を弾く。

 その勢いにヴォルクが・・・・ぶっ飛ばされた。


「しょぼい神器と言ったか?」


 顔をピクピクとひきつらせるヴォルクに、オルトは剣を向けた。


「お前にはこれで十分だ」

「ほお……?」


 タッグ戦、残り時間二分──。





───────────────────────

多くなってきたので、簡単な神器まとめです↓

(読み飛ばしても問題ありません!)


☆メインキャラの神器


・オルト【???】:何の変哲もない剣。


・レイダ【おう】:紫の直剣。一度の振りで、複数の斬撃を飛ばす。持ち手に紫の桜が一輪咲いている。


・ルクス【光の剣クラス・ソラス】:青白く輝く剣。光は人々に希望を与える。刃物というより、持ち手から太い光が出ている。


・ミリネ【恵みの杖】:周りに強化と回復をもたらす。複数での戦いで真価を発揮する。


・ヴォルク【どうの黒剣】:太く長めの漆黒の剣。重量は一般的だが、相手に与える攻撃はとても重い。


・ヴァリナ【蛇剣じゃけん】:わんきょくしたS字形の剣。持ち手に蛇の彫刻がある。正面から打ち合えば、一方的に相手の懐に入り込む。

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