第16話 想定通りの展開

 「はああああああッ!」


 レイダが先行する形で、オルト達は森を駆け抜ける。

 配置された神力具が弾を放ってくるが、全くお構いなしだ。


「レイダ、左!」

「分かってるわ!」

「……! さすが」


 先ほどまで苦戦していたはずが、一転。

 どのタッグよりも抜群のコンビネーションだ。

 ちらりと視線を移したレイダは、改めて思う。


(やっぱり、やりやすいわね!)


 オルトの広い視野に、たくみなサポート。

 レイダがそれを100%信頼することで、二人はとんでもない速度で進行していた。

 さらに、高速移動中にもオルトは的確な指示を出す。


「このまま北西方向に突っ切る!」

「ええ!」

「多少リスクはあるけど──」

「わたし達ならいけるわ!」

「……! ああ!」


 事前の作戦会議中、レイダはうわそらだった。

 そのため、移動しながらオルトが立案している。

 それでも、二人の進行速度はぶっちぎりの速さだ。


「これなら──」

「いける!」


 視線の先、木々が段々と少なくなってくる。

 そうして、二人は一気に“神力具の森”を抜けた。


 すると、一人の少年が姿を見せる。


「ちょっと遅かったんじゃない?」

「「……!」」


 視界が良い場所で待っていたのは、ルクスだ。

 それには二人も足を止める。


「まあ、そう来るよな」


 現在地は、ちょうど中間地点。

 防御側としては、フラッグを守る最終防衛ラインに一人、時間を稼ぐのが一人というのが基本的な戦術だろう。


 ここまでのタッグでも、最も多く見られた形だ。

 時間を稼ぐ方が超えられてはどうしようもないため、フラッグを守る方に強い者ヴォルクを置くのも納得がいく。


 とはいえ、制限時間はそこまで残っていない。


「行きなさいよ」

「……!」

「ここはわたしが相手するわ」


 それを考慮して、レイダが口にした。

 現在の成績は下だが、オルトを自身より上だと認識している。

 それゆえの判断だろう。


「……分かった。気をつけて」

「フン、誰に言ってんのよ!」


 オルトが了承すると同時に、レイダはド派手に神力弾をぶっ放す。

 大きな煙を起こす為だ。

 その隙にオルトは通り過ぎていった。


「素直に通して良かったのかしら」


 自ら起こした煙が徐々に晴れる中、レイダが口を開いた。

 対して、ルクスはこくりとうなずく。


「いいよ。全部・・ヴォルク君の想定通りだ」

「へえ、だったら──」

「……!」

「ここで倒されるのも想定通りなのかしら!」


 レイダは一気に距離を詰めた。

 神力の出力を上げ、多大な身体強化をほどこして。

 残り時間も考え、一撃で決めるつもりだったのだろう。


「やっぱりね」

「……ッ!」


 だが、ルクスはひらりとかわしていた。


(わたしの剣筋を……!?)


 否、躱したというよりは、もはや予期に近い。

 煙で若干視界不良の中、レイダの速さに対応できるとは思えないからだ。


「正面を狙った“真っ直ぐの突き”。これもヴォルク君の言う通りだ」

「……!」

「そして、このあふれてくる力も」

「……ッ!?」


 ルクスが神力をふくらませる。

 その風圧によって、煙は一気に晴れ上がった。

 それにはレイダも目を見開く。


(コイツ、まさか……!)


 その神力の扱い方は知っている。

 自分も使っているものだからだ。


神器具現化マテリアライズ

「……!!」


 レイダが驚くのも無理はない。

 この習得は本来の原作よりも数段早く、ルクスも今まで見せてこなかったからだ。

 それもそのはず、ルクスが習得したのはさっき・・・である。


「僕の神器の形は“剣”みたい」


 高度な神力操作を覚え、一番欲しい武器種を想像する。

 それによって、神器具現化マテリアライズは習得できる。


 主人公らしく脅威の成長を遂げているルクスは、神器の形を教えてもらう・・・・・・ことで身に付けた。


「神器──【光の剣クラウ・ソラス】」

「……っ!」


 ルクスの神器は【光の剣クラウ・ソラス】。

 “青白い光”を神々こうごうしく放ち、人々に希望をもたらす剣である。


 初めての具現化にもかかわらず、威圧感はすさまじい。

 その唯一無二の神器の力を、レイダも肌で感じていた。


(なによこの、天に選ばれたような剣は……!)


 レイダの思考もあながち間違いではない。

 知るよしもないが、彼は原作主人公だ。

 相手にとって、“主人公補正”ほど理不尽なものはない。


「ここは僕が通さない」

「……!」


 それでも、レイダは一歩も引かない。


「……わたしは強くならなきゃいけないから」


 強くなるために。

 少しでもオルトに追いつくために。


「アンタを倒して先に進むわ」

「うん、勝負だ!」


 レイダとルクスの神器での戦いが始まった。



 


 一方その頃、オルトの地点。


「──来たか」


 中央地点を抜けると、オルトの前方から低い声が聞こえてくる。


 ここは最終防衛ライン。

 オルトの視線の先にはフラッグも見えている。

 その前にたたずむのは、悪人貴族のヴォルクだ。


「まあ、ここにいるよな」

「そりゃもちろん」


 何の変哲もない基本的な戦術だ。

 小細工は必要ないと、ヴォルクはそう言いたいのだろう。

 ならば、オルトには勝利への道筋が見えていた。


(ここを突破して勝ちだな)


 制限時間は残り三分。

 序盤は手間取ったが、ほとんど勝利を確信した。

 ──ヴォルクの問いを聞くまでは・・・・・・・・・・・・


「オルトだったか。一ついいか」

「ん? 別にいいけど」

「お前は何者だ」


 オルトは首を傾げる。


「いや、ただのオルトだけど……」

「あー、違う違う」


 だが、次の言葉でオルトは一気に目を見開いた。


「お前は“転生者”なのかって聞いてんだよ」

「……!?」

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