ブックタワーを攻略せよ!

吉岡梅

ここに塔を建てるぞ

いつもの3人が集まった私の部屋。私は声高らかに本の一節を読み上げた。


「"人類が塔をつくり神に挑戦しようとしたので、神は塔を崩した"。バベルの塔の話ね。……ってみなと! アンタこれ私のブックタワー計画を暗にバカにしてるわけ?」

「いや怜奈れな、暗にっていうかダイレクトにだけど」

「そっちのが悪いわ!」


私たち2人がギャーギャー騒いでいるのを愛菜まながおろおろと見ている。幼なじみの私と湊にとってはいつものじゃれ合いだが、心配なのだろう。


――心配っていうか、まあ、気になるよね。


私は愛菜の事をおもんぱかって矛を収めた。


##


きっかけは図書カード6万円分だった。たまたまみかけた懸賞に応募したら当選した。なんでも書店振興企画の一環とのこと。嬉しいけれど、普段からあまり本を読まない高校生にとっては、ちょっと持て余してしまう額面だ。


「本かあ、本好きの愛菜に相談してみるか……。ん? 愛菜? そうか!」


ピンと来た。愛菜は万事控えめでおとなしいタイプで、本が好きだ。そして湊の事も。だったら湊と愛菜を巻き込んで、3人で月に1冊ずつ本を選んで相手に贈るという「交換ブックタワー」システムを作ればのでは。


月に1冊ずつ相手のために本を選び、それを積み重ねていく。3人なので1カ月中に読む本は計2冊。これくらいならなんとかいけるだろう。1年で24冊の本がタワーのように積み上がり、お互いのために選んだ本を通じて理解を深めていく。良いのでは。


私と湊にとっては本を読むきっかけになるし、愛菜にとっては湊と仲良くなるチャンスだ。幸いにして資金はある。そしてうずくいたずら心。決行だ。湊、愛菜、私は塔を建てるぞ。


さっそく手ごろな大きさの箱を3つ用意し、その背に幅10cmくらいの板をにょーんと上に伸びるように張り付ける。この箱の上に本を積み上げていくのだ。板は今月読む本を立てかけて分かりやすくするための背もたれのようなものだ。


湊は読書と聞いてイヤそうな顔だったが、段ボールタワーのショボさがおかしかったらしく、「まあ、でもやってもいいぜ。そのタワー(笑)に積めばいいんだよな?」と承諾した。いや力作だろこれ。大丈夫? 目薬さす?


そして愛菜。「やってみたいな……」と、恥ずかしそうに微笑んだ。控えめな笑顔の奥には隠しきれない目の輝き。こっちも嬉しくなるというものだ。


「じゃあ決まり! 今月から月に2冊ずつ読んで、その感想を発表する感じで行こう」

「2冊か。まあいけなくはないかな。で、選ぶ本は何でもいいのか?」

「んー。OK。漫画でもありとします。ただ、あんま高い奴は駄目ね。合計6万に収まるのがベストだから。はみ出たら自腹ね。愛菜もそれでいい?」

「うん。ええと、1年やるとしたらひと月に使えるのは5,000円で、それを3人だからひとり1,600円くらいかな? 1冊800円までなら2冊買えるね」

「さすが愛菜。計算早い! 目安が800円かあ。まあ行けるんじゃない?」

「そもそも本って1冊いくらするんだ?」


私と湊は目を合わせて首を傾げる。すまん愛菜……。こんなレベルだが1年よろしく。


かくして私の壮大なブックタワー計画は始まった。本を読み、そしてあわよくば2人をくっつけるという神ですら思いつかない完璧な計画。さあ、2人とも、読むが良い。そして、くっつくがいい。

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