旅行Ⅲ:与太と霧とガチンコマッチ

 剣崎がレイをドリフトで追い抜く。

 そうか、ドリフトか。

 なら私も。

 でも、お父さんが言ってたっけ、4WDでドリフトは難しいって。

 でも、その分、タイヤのグリップ力は強い。

 もう少し速く。

 もう少し。

 アクセルを徐々に強め、加速する。

 そして、ある程度、感覚を掴んだ。


「このまま、走りきって一位を取るぞ!」


 平坦な道に入った。

 アクセルをより強く押し込み、ギアレバーをオーバードライブODに倒す。

 より速く加速する。


***


 坂道が終わりに差し掛かり、真っ直ぐな坂道になったとき。

 クラッチを踏み、6速に上げ、半クラッチを挟まずにクラッチを繋げる。

 通常、回転数が落ちるところを、坂道の傾斜を活用して、タイヤの回転数を維持。

 半クラッチを挟まずに一気に同期。

 セクター3との境目である、山沿いの道との立体交差橋を通過し、山沿いの道との合流地点の一車線の道を慣性ドリフトで――オーバースピードによる、ガードレール衝突に保険をかけ――クリアし、緩やかなカーブと直線の乱立する片側二車線道路に突入する。

 サイドミラーを覗き、赤楚がいないかを確認する。

 このコースでは、セクター1とセクター2の境目とセクター3に進行方角が完全逆転する。

 その際、セクター1とセクター2の境目は緩やかなカーブとT字路なのだが、セクター3は国道と国道の大きな交差点でのUターンカーブで、来た道を戻るという、4WDにはものすごく不利な点である。

 そこで、減速してくれれば勝ち目はまだある。

 細かなカーブをステアリングで曲がり、また、直線になる、それを、寺社前の通りを抜けるまで続く、しかも、このあとは、細い道の細々こまごまとした、カーブのあと、また、直線の国道に出て、さっきいったUターンカーブがある。

 いかにカーブで食らいつき、直線で離されるのを短くするか、か。

 赤楚も多分、ここで追い上げてくるから怖いな。

 最悪、赤楚はセンターキープで抜かせなければいいし。

 それよりも犬飼をどう攻略するかだ。

 本当にレーシングゲーム初心者ですか? ってくらい運転がうまい、しっかりセンターキープできてるし、コーナリングも、きれいに内側を回っている。

 ただ、カーブのときは、結構減速してるからそこが狙い目だな。

 勝てる気がしない。

 走行考えているうちに、Uターンカーブに差し掛かり、サイドブレーキをかけつつ、クラッチを踏み、ギアをおとす。

 白煙を上げ、きれいな弧を描き旋回する。

 滑りに滑った後輪を1速の高トルクで立て直す。

 最高速度が低いとはいえ、グリップ走行の減速Uターンよりかは速くカーブをクリアし、インターバルをキープする。

 セクター3を抜け、二周目に入った。

 霧が出た。

 このコース、通常十分の一で発生する、特殊状況の霧が二分の一の確率で発生する。

 運営によると、初心者に様々なコース状況を体験してほしいということなのだが、いくらなんでも、霧は大変だ。

 初心者でなおかつ、初見で霧になると、速度がほぼ出せない。

 そこを逆手に取る。

 マゼンタの車体が霧に飲み込まれ、それを追うように入る。

 サイドブレーキレバーに手を置き、小刻みにかけて、つづら折りをドリフトで抜ける。

 このコース何度走ったことか。

 頭が覚えてなくても体が覚えてる。

 加速3秒、サイドブレーキ、ステアリング、サイドブレーキ解除。

 ジリジリと見えなかった、マゼンタが近づいてくる。

 だが、犬飼がいい感じにセンターキープするせいで抜かせない。

 テールライトの二重線がきりに反射して幻想的な景色を作り出す。

 セクター1の上りが終わり、セクター2に入る。


***


 不意に、後ろから光が消えた。

 後ろにじっとくっついていた剣崎からついに逃げっきたと思った。

 セクター2に入り、最初のカーブを安心したからか、少し遅く、少し大回りに回る。

 その時だった。

 不意に、カーブの内側に、車が割り込んできた。


***


 フロントライトを消す。

 犬飼が油断したところに、赤楚と同じ方法で内側に入り込む。

 そのまま、並走する。

 犬飼のグリップ走行の安定性、俺のドリフトの腕、それが拮抗し、ほぼ同じ速度で下る。

 何より、この霧のお陰で、マシンのスペック差を縮めている。

 スプーラの右前輪を溝に引っ掛けてカーブし、犬飼はきれいにグリップ走行でカーブする。

 犬飼がグリップ走行で内側ギリギリを走り、スプーラがサイドブレーキドリフトで曲がる。

 一進一退の攻防が終わりを告げたのは四回目のカーブが終わったときだった。

 おそらく、アクセルとブレーキを間違えたのだろう、一気に減速する。

 それを見逃さず、慣性ドリフト、サイドブレーキドリフトの合わせ技でオーバーテイク、一気に下る。


***


 フロントライトを消したのか。

 アクセルとブレーキを踏み間違えなければ勝てたかもしれないのに。

 悔しい。

 でも、剣崎もすごい。

 カーブの曲がる速さとか。

 あれは、勝てないよ。


***


 ゲームセット

 リザルト、一位:剣崎・二位:ほむら・三位:麗子・四位:レイ。

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