【1】知らない世界1
市街地から電車で二駅ほど離れた新興住宅地。
森林は開発され、広大な土地が区画整理されているが、近隣には未だ商業施設等は進出しておらず、あまり住宅地としての人気はないようだ。
区画された宅地はかなり余っているようで、家屋は全くといって建っていない。
空き地が無数に並ぶ中、ひっそりと存在する小さな公園は、真新しいにも関わらず、いつも無人でどこか寂しげである。
今年、創立28周年を迎える雅台高等学校は、この雅台の北西隅に住宅地と山林に挟まれる形で所在している。
偏差値は県内で真ん中あたり。部活動も決して盛んというわけではなく、何をするにも中途半端な学校だ。
授業は既に終わり、傾き始めた陽光に包まれる中、和悠は部室へ向かい廊下を歩く。
和悠が所属する科学部の部室は、校舎3階の北側端にある。
グラウンドからは、何部かは分からないが運動系の部活であろう活気付いた掛け声が聞こえる。
「遅かったじゃないか、和悠君」
「すみません、佐伯先輩。お腹が痛くてトイレに行ってたのですが、紙が無かったもので……」
「それで、拭かずに出てきたのか?」
「拭きましたよ!たまたま、クラスメイトが入ってきた声が聞こえたので、紙を投げ入れて貰いました」
佐伯菊莉。雅台高等学校の2年生で和悠と同じ科学部に所属している。
華奢な体躯に整った目鼻立ちをしており、校内の男子からの人気も高い。
艶やかな黒髪は肩に触れるか否かの長さで切り揃えられている。
「今日、君が早ければまた実験しようかと思っていたが…….」
「またいつものガラクタですか」
科学部には現在、和悠と菊莉を含め6名が在籍しているが、他の4名は幽霊部員と化している。
科学部では、菊莉の発案で電化製品にスマートフォンを繋ぎ、便利家電の開発を行っている。
現在は、自作のアプリケーションをインストールしたスマートフォンを電子レンジに接続することで、他のスマートフォン端末から遠隔で、加熱時間、出力調整等を行う実験を進めている。
「ガラクタとはなんだ、電話レンジ(仮)だ」
「その名前はタイムリープしそうなのでやめましょう」
「?」
「実験だけなら、今からでも遅くはないんじゃないですか?」
「それが、肝心のスマホがウイルスに感染したっぽくてな」
そう言って菊莉が示したスマートフォンの画面は、ウィンドウが無数にポップアップした後、処理落ちしてフリーズしているような状況だった。
「俺のスマホは貸しませんよ?」
以前、菊莉のスマホが火花を散らしながら弾け飛んだのは記憶に新しい。
「そんなことはしないさ。今日は中止だ」
菊莉は荷物をまとめ終えると、部室のドアへと向かい振り返る。
「和悠君、暇ならちょっと買い出しに付き合ってくれないか?」
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