君はきっと俺のものにはならない

椿

第1話

俺の彼女はショーキャバクラでシンガーをしている。



バイト終わりに夜遊びが好きな友人に無理矢理引き摺られる様にして連れていかれたその店で俺が彼女を見つけた。



店内に無理矢理設置させられた小さいステージにはアイドルグループのモノマネさながらの衣装と同じような化粧のキャスト達が次々と登場し、耳障りな騒音を響かせて歌い、踊る。



(頭が痛い…)



際どい衣装で踊りながら時折こちらへアピールを飛ばしてくるキャストに俺は眉を寄せる。



「帰る」



騒音の中で立ち上がり、隣に座っていた友人にそう告げた時、店内が突然無音になった。



「?」



何事かと顔を上げると、ステージ上には小柄なキャストが一人だけ。



うっすらと灯された白い霧のようなライトの下で伏せがちな瞳をゆっくりと開くと同時にマイクを持った手を口元へと運ぶ。



ただそれだけの仕草に俺は目が離せず、立ち上がったままの状態でステージを見つめた。



そして彼女が微かに息を吸い込む音が聞こえたかと思うと、次の瞬間その形の良い唇から発せられた透き通る伸びやかな歌声に俺の全てが魅了された。

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