世界最後の夏休みは、見知らぬ貴方と。

椿

第1話

『あと7日で世界は終わる』




付き合っている人に、奥さんと子供がいると分かってしまったその日、黒い肌の美しい男が世界中のネットワークをジャックして宣言した。




世界は激しく混乱した。




嘆き悲しむ人、



どうせ悪戯だと取り合わない人、




悪魔を退治しようと謎の儀式を行う人々。




しかし、誰がなにをしようと、世界は謎の男の宣言通り緩やかに崩壊し始めた。




(調度いいや、全部壊れてしまえ)



宣言から2日後、電車が動かなくなった。



3日後、テレビがなにも映さなくなった。



4日後、友人の誰とも連絡が取れなくなった。



5日後、家族が忽然と居なくなってしまった。



6日後、とうとう町のどこにも自分以外の人の姿を見なくなってしまった。




「私の恋、いい思い出に上書き出来ないまま終わるんだー…」



私は暗闇に呑み込まれつつある海を眺めながらため息をつき、手に持っていたスマホを星屑の光の混じった砂浜に放り投げた。




スマホの画面には数日前にある人物から送られてきたメッセージが表示されている。




"最後に君に会いたい"




私にこんなメッセージを送ってくる人物など、この世界にただ一人しかいない。




(まぁ、もう消えちゃったかもしれないけど)




初めて恋をした相手にとって、自分は恋の対象ですらなかったことを知った時こそ、彼も世界も恨んだが、




今では愛こそ無いが、何処かで無事に生きていて欲しいという淡い想いがあった。




彼とのあらゆる思い出を無意識に思い出していると、何処か遠くから人の声が聞こえてきた。

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