"なぜ"かそうしないといけないと思った。
椿
第1話
その日、俺は疲れていた。
肉体的にも、精神的にも。
サッカー部な俺は、次の試合ではレギュラーになる為に毎日必死で練習している。
しかし、コーチからは細かいダメだしばかり。
仕舞いには、家でやっている自主練まで止めろ言われた。
無能は何やっても無駄だってか?
「はっ、ヒデーな」
無能だからこそ、人一倍頑張らなきゃいけないんだ。
レギュラーの奴等が練習してない時も練習して、俺にはない才能の分を少しでも取り返すんだ。
やるしかないんだ。
そう強く想いながら俺は、到着した電車に乗り込んだ。
いつものことながら、電車は帰宅ラッシュで満員状態。
知らない奴の鞄が背中に押し付けられたり、肘が肩を掠めたりする。
こんな日に満員電車は堪える。
タダでさえネガティヴな気分なのに、無造作に揺れる車体のせいで、否応なしに他人と体をぶつけ合うしかないのだから更に不快でしかない。
そんな時、電車が一際大きく揺れたかと思うと、俺の後ろに立っていたであろう男が、思いっ切り俺の背中へと激突してきた。
「いっ!?」
突然の衝撃に、俺は一瞬声を漏らしたが、仕方のないことなので、声を飲み込み、つり革にしがみつく様にしてなんとか体勢を保った。
すると、ぶつかってきた男はすぐに「あ、すいません…!」と焦った声で謝罪してきたので、
俺も「あ、大丈夫です」と少しだけ振り返って驚いた。
申し訳なさそうに眉を下げるその男が、俺の部活のコーチにそっくりだったのだ。
「!?」
しかし車通勤のコーチがわざわざ満員電車なんて乗るわけが無く、俺はすぐに人違いだと気が付いた。
(だいたいコーチはあんな風に他人に謝ったりしない!いつも横柄で威張り腐ってるしな!)
俺はそれから再び自分の中で湧き出したコーチへの不満をなんとか落ち着かせようと、一度深く息を吐いて、外の景色を見た。
そして目に飛び込んできたのは、外の景色ではなく、窓ガラスに車内が反射して写った"こちら側"の様子だった。
しかし、その窓ガラスに写った"こちら側"が明らかにおかしいのだ。
俺の隣には数分前までは確かに見知らぬサラリーマンが立っていたはずなのに、
そのサラリーマンの代わりに、いつの間にか黒い人型の影が立っていたのだ。
「!!」
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