第19話

「それじゃあ、僕は仕事に行ってくるね。寂しいだろうけど、今日は牡丹が代わりに居てくれるから、朱殷さんはお留守番しててね♡」



「分かりました、気を付けて行ってらっしゃい」



玄関先で朱殷がその短い前足をちまっと上げ、手を振る仕草をすると、恋は顔を押さえて蹲った。



「!?どうしました!?頭痛いんですか!?」


「〜〜〜!!……行きたくない…!!」


「えっ?」


「そうだ!僕も朱殷さんとずーっと一緒に居れるように、店を辞めよう!」



(げぇ〜!?それはとんでもねぇ〜!そろそろ一人になりたいのにぃ……)



一人で納得し、せっかく履いた靴を脱ごうとする恋の肩を牡丹が強引に押した。



「いーから速くいけ!お前のせいでウチは今、事務員がいねーんだ!その穴埋めをお前がやるって話だったよなぁ?訳分かんねーこと言ってないできちんと仕事しねーなら、この豚猫壊してやっても良いんだぜ?」



「んえ!?私!?」


いきなり首根っこを掴まれた朱殷は、まさかの展開に身震いした。



「壊す……?朱殷さんは僕のものだ、彼女を勝手にどうこうするなんて絶対に許さない。万が一、僕の知らない所で朱殷さんが壊されでもしたら…僕は身内だろうがなんだろうが、少しでも疑わしい奴は一人残らず殺す…!体だけじゃなく、魂まで粉々に砕いて、もうこの世に生まれ落ちることも不可能にしてやる」



恋が言葉を紡ぐほど、段々とサンストーンの瞳がドス黒く濁っていき、白髪の髪もジワジワと中心から黒く染まっていく。



「むっ…!むむむん…」


今までに見た事のない恋の姿に、朱殷は驚きとともに、一瞬体の内側にビリビリと電流が走るような感覚を覚えた。

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