第9話
【…お前が…追われている、と言っていたからだ】
野獣はしばらく考えてから精一杯取り繕った言い訳を絞り出した。
そして、その言葉を聞いた娘は灰色の瞳を伏せ、震える声で「そう…でしたね」と頷いた。
「し、しかしもう…湯浴みまで手伝って頂かなくても大丈夫…ですので」
【…分かった】
俯き、野獣の温かな腕に顔を埋めながらボソボソと喋る娘に、野獣は少し突き放された様に感じた。
そうしてしばらくして、娘が眠りについたかと思うと、次第に娘は体を固くし、小刻みに体を震わせ始めた。
娘自身は覚えていないようだが、実はこうして毎晩の様に悪夢にうなされている。
「ん〜〜〜!!」
【……………】
唇を噛み締め、声にならない声で叫ぶ娘を、野獣は哀れんでいた。
ガタガタと震える娘の体をベッドの中で抱き寄せ、自分の体の中に隠すように抱きしめる。
そうするとだんだんと震えは治まり、スースーと静かな寝息へと変わる。
自分の醜悪な体に何処かホッとした表情で体を預けてくる娘に、野獣はなんだか自分の存在を肯定されている様に感じた。
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