第11話

(シルヴァさんどうして今更あんな確認したんだろ…)



ゲーム再開直前のシルヴァのまるで念を押すような確認の仕方に、すみれだけではなく、参加者全員が疑問に思っていた。



(そもそもこの状況で誰がどう"嘘"をつくの?)



このゲームにはそもそも言葉は要らない。


何故なら参加者同士の対決でもなければ、参加者とシルヴァ達の対決でもない、完全にそれぞれ個人の気力との勝負なのだ。



すみれがぼーっとそんなことを考えながら、無心で里中の後ろを歩いていると、すみれ達が通り過ぎてきた方向の扉の鍵が開く音がした。



「え!?だれ!?」


里中の叫び声に近い声が空間に響き、すみれが扉を見付けた時の様に全員が同じ方向を振り向いた。



見ると、そこは確かに一度すみれが開けた扉が、今再び山田の手によって開けられていたのだ。



(あれ…あそこって…?)



しかし、序盤にすみれが開けた扉など、他の参加者は全く記憶しておらず、当のすみれも確固たる自信などなかった。



(だって…私の記憶が正しいのであれば、あの人がいま持ってる鍵は……)



すみれと参加者一同が複雑な表情で扉を開けた人物を見つめていると、シルヴァがすみれの時と同じ様に声を掛けた。



『これは山田様、おめでとうございます。貴方は扉を開けました、その事実は変わりません。よって、貴方にもその扉から先へと進む権利がございます。扉へと進むタイミングは、すみれ様同様自由でございますが…如何なさいますか?』



「ふん、こんな所にいつまでも居られない、私はお先に進ませて貰います」



山田はキッパリとした口調で、迷うことなく暗闇の中へと足を踏み入れた。



すると山田を中へと入れた扉は再び閉まり、まるでオートロックの様に独りでにガチャリと鍵の閉まる音がした。



「行っちゃった…よく迷わずに入って行けるよね…」


「……………」


「すみれさん?どうしたの?」


山田が中へと進んで行った扉を不安そうに見つめるすみれに、里中が顔を覗き込んできた。


「あ!別に…その…何事もなければ…良いんです…」



そう言ってすみれが曇った表情でシルヴァを見上げると、すみれの視線に気が付いたシルヴァが優しく微笑みかけてきた。



「……………」


(シルヴァさんも特に言い出すこともしないし…大丈夫なのかな…?)



不安そうなすみれに、里中は「私もさっさと見つけて、一緒に解放されようね!」と笑顔で手を握ってきた。



「あ、はい。探しましょう」



そうしてすみれ達が作業に戻ろうとした頃、田村と木村は既にあちこちを移動しながら作業を再開していた。



すみれはなんだか嫌な予感を胸に抱えたまま、里中とある扉の前に立ち、里中が鍵を差し込もうとしたその時だった、



先程山田が入って行った扉がバンッと大きな音をたてて開き、何かが放り投げられるようにしてすみれ達の居る白い空間へと勢いよく転がってきた。



『おや』



シルヴァは扉から放り出された物がなんであるかを瞬時に理解し、琥珀色の瞳を妖しく細めた。



べちゃっ、とまるでトマトを床に落とした時のような音と共に、赤い液体が散らばり、白い床を滑っていく。



参加者は遠目からでは何がやって来たのか判断することが出来ず、恐る恐る近付いて行った。



「うっ、うわあああぁぁ!!」


そしていち早く"それ"に辿り着いた木村が驚きと恐怖で腰を抜かしたのを見た田村が、木村より少し後ろから"それ"を確認した。



「うぅぅ!!うえぇ…!」


田村は"それ"がなんであるか理解した途端、体から込み上げてきた物を堪えきれず、嘔吐しだした。



「え…?なにが起きてるの…?」


男性二人の取り乱し様に、里中とすみれは得体の知れない恐怖で、その場から動けずにいた。



自分の足元で人間達が恐怖している姿を見て、シルヴァは一瞬、人知れず暗い笑みを浮かべた。



そして一度咳払いをすると、顔をいつもの柔らかい笑顔へと作り替え、口を開いた。



『皆様、大変残念な事態となってしまいました。先程扉の先へと進んで行かれた山田様ですが、旦那様のご機嫌を損ね、脱落されてしまいました』



「だつ…らく…?」



『はい、こちらを見て頂ければ一目瞭然ですが、旦那様はとてもお怒りでございます。恐らくまた同じ様な方がいらっしゃれば連帯責任として、皆様全員が山田様の様な姿になってしまうでしょう』



そう言ってシルヴァの指さした先には、体を鋭い爪や牙でズタズタに切り裂かれた状態の山田が身体中から血を流して倒れていた。

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