第4話

シルヴァは騒然とするすみれ達を無視し、穏やかな笑顔でパンパンッと高らかに手のひらを打った。



シルヴァの狙い通り、足元の人間達はその音ですぐに静かになった。



そして誰もが困惑の表情を浮かべる中、今までただの真っ白な空間だった左右の壁いっぱいに、色も形も全て違う作りの扉が現れた。



「な、なんですかこれは…」



田村の震える声にシルヴァは形の良い唇を一瞬歪め、その隙間から鋭い牙が覗く。



『ではここでルール説明といたしましょう。ルールは簡単です、今からランダムにお渡しする鍵を使って、その鍵に合う扉を見つけ出してください。最初にお渡しした鍵で、正しい扉を見つけられた方はこの御屋敷から元いた場所へと無事にお帰り頂くことが出来ます。』



「た、正しい扉って…間違った扉を選んだらどうなるんですか…?」



田村の問いかけにシルヴァは左耳の黒い石を揺らした。



『間違った扉?』


「こ、こんなに沢山の扉の中から見つけるなんて…む、無理だと思うんですけど…」



シルヴァの琥珀色の瞳に見つめられ、田村は言葉を詰まらせながら喋った。



『ああ!なるほど、その点についてはなにも問題はありません。扉を探し出すにあたって、片っ端から扉に鍵を差し込み、回すのはなんの問題もありません。間違った扉に鍵を差し込んだところで扉は開きませんから。また、特に制限時間を設けることも致しません。思う存分、ご自身の鍵に合う扉をお探しください』



シルヴァの説明に、全員から安堵の息が漏れた。



鍵を試すことも可能。


そして時間の縛りもない。


ここから脱出するのには、この壁一面に存在する扉の中から配られた鍵と合う鍵穴をもった扉を探し出すだけ。



参加者にとって一見不都合な点は見当たらない。



ゲームには勝者と敗者が必要だが、このゲームのルールでは全員がクリアすることも可能だ。



すみれはシルヴァの説明したルールと、"ゲーム"という表現に違和感を感じざるを得なかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る