聖域都市国家を防衛せよ~崇拝対象──────俺!?~

四季 訪

第1話

 「あ~、兄ちゃん。聖域都市に行きたいって?」


 「はい。なのでその道のりでの護衛任務などがあれば紹介して頂きたいのですが」


 王国の首都にある冒険者ギルドの受付にて、体格の良い柄の悪い男に、黒髪黒目をした平凡の見た目の青年が相談を持ち掛けていた。


 見た目はパっとしない容姿だが、一つ変わった所があるとすれば彼の頭の上に、角のついたウサギがかわいらしく寝息を立てていることくらいだろうか。


 カウンターの裏にいる大男が青年を品定めするように全身を見る。


 睨みつけるようなその眼に青年が冷や汗を掻いていた。


 「兄ちゃん、あんまり強そうに見えねぇなぁ。体の線も細い方だしよぉ。いや、でも体幹は良さげだな。おいプレート見せてみろ」


 そう言われた青年が渋々といった具合で茶色のプレートを大男に見せた。


 「若馬級、まるっきし素人じゃねぇか!?そんな新人に任せれる護衛任務があるわけねーだろ!?等級を上げて出直し来い!」


 しっしっとガキでも追い返すような仕草に青年が低く呻いた。


 ここもだめか、青年がそう思った時、後ろから少女の声がかかった。


 「あのーもしよろしければ私のお仕事手伝ってもらえませんか?」


 その声に青年が振り返ると。そこにはオドオドとした様子の金髪の少女が杖を抱えて立っていた。


 「話聞かせてくれる?」


 詳しい話を聞くため、二人は場所を移動することにした。


 冒険者ギルドを出た二人は近くの公園の椅子に腰かけ、青年が少女の持ちかけた話を聞く。


 「その、実はですね。私、聖域都市までの旅路の雑用係の仕事を請け負ったんですけど、急に欠員が一人出てしまって……その補充を依頼主にお願いしてたんですけど、自分で探せと言われてしまいまして」


 「探している途中に、丁度よく聖域都市行きの任務を探している俺を見つけたと」


 「はい……どうでしょう」


 「ひとつ聞きたいんだけど、雑用係って二人も必要なの?」


 一般的に想像する都市の移動時の人数は数人だ。


 家族だったり友人だったりいろいろと形はあるが、一度に移動する人数はそう多くない。


 キャラバン等になると人数は多くなるが、既に組織化しているそういった集まりの中には当然、雑務を行う人間が数人いるものだ。


 わざわざ外部から雇うという話はあまり聞かない。


 護衛なら納得するのだが。


 「そのー、それが少し特殊な方々なので……」


 「言えない?」


 「言っても断りません?」


 その判断のための相談なのだが、と青年は考えるがオドオドする少女にそのままの口調で言ったら責めていると取られそうで言わないことにした。


 「前向きに検討するから話してみてよ」


 「うぅ……そのぉ。この国から派遣される使者の方々になります」


 言い辛そうにする彼女の口からでたその言葉の意味する所はつまり……


 「貴族たち、か」


 「うぅ、やっぱりだめですよね」


 目を伏せる少女が、どうしようと頭を抱え始めた。


 どうやら雑用係が一人だけだと貴族の相手は大変らしい。


 護衛の数とか考えたらそれなりの人数になりそうだ。


 「よし、俺をその雑用係に加えてくれ」


 「え!?いいんですか!相手は貴族様ですよ!」


 「めんどくさいけどいいよ。今お金なくて乗合馬車にも乗れずに困ってたところだから、むしろ助かるよ」


 「ありがとうございます!あ、あの、私フェルマ・マリンと言います!その、お兄さんのお名前は……」


 「俺はソウキ。ミトカワソウキって言うんだ。因みにソウキが名前でミトカワが姓だから」


 「ソウキ・ミトカワ……変わったお名前ですね、あっ、ご、ごめんなさい!私いきなり失礼なっ」


 「いいよ。仕事くれた人なんだし。そんなことじゃ怒らない」


 優し気に笑って済ませた青年、ソウキが頭の上でぐっすりと眠っているウサギのふわふわな体に手を置いてその体を撫でる。


 「で、こいつが俺の相棒のラヴィ」


 お昼寝を邪魔されたウサギ──ラヴィが大きな欠伸をついて起き上がった。


 「ふわぁ、かわいい」


 その可愛いラヴィの様子に少女──フェルマが目を輝かせた。


 「とりあえずよろしくな、フェルマ」


 「は、はい!よろしくお願いしま、うッ────っぅ!」


 舌を噛んだフェルマが顔を赤くして俯いてしまった。


 「とりあえず、案内してくれるか?」


 それを見て苦笑いを浮かべたソウキが早速雇い主の下までの案内を頼んだ。

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