第11話 蛍雪の功

▶時期:天暦元年(947)― 天暦二年(948)


梨花は、白雪が晴明の初恋の相手であると同時に、彼の人生に大きな影響を与えていたことを痛感する。晴明はそのことを認めながらも、今の自分にとって白雪は憧れの存在に過ぎず、安倍氏の末裔として一族の再興を優先しなければならないと誤解を解いた。


泰山府君の法によって病から救われたことを知った梨花は、謝意を伝えるために泰山府君が祀られている赤山禅院に参詣した。晴明も彼女の旅に同行した。梨花にとって泰山府君は初めて聞く名前であり、彼女の生みの親だとは思いもしなかった。その日の夜、梨花は自分の正体に関わる不思議な夢を見た。


本来、賀茂保憲は暦博士に就任する予定だったが、前年の疫病で陰陽博士が亡くなり、陰陽生にも適任がいなかった。そこで、優秀な陰陽師である彼が臨時の陰陽博士として生徒たちを養成することになった。陰陽生に昇格した晴明は他の生徒たちと一緒に保憲の講義を受けていたが、いずれ暦道に戻る師匠に付き従わなければならなかったため、博士への道は閉ざされていた。とはいえ、陰陽生の講義は陰陽師になるために必要な技能も含まれていたので、晴明は勉学に勤しんだ。


保憲は晴明を弟子だからといって贔屓はせず、一人前の陰陽師に育てるべくほかの生徒たちと同等に扱った。陰陽寮の教科書を外に持ち出すことは禁止されていたため、晴明は寮に留まって勉学に励み、夜遅くに帰ることが多くなった。


晴明が夜遅くまで陰陽寮で勉強していると、初雪が降ってきた。晴明は白雪に思いを馳せ、雪明かりの下で陰陽道の習得に励んだ。


そうした日々が続き、晴明は出勤前に梨花から破子を手渡された。多忙な晴明の体調を心配した梨花が、丹波康頼の指導の下で身体に良い食べ物を破子に詰めたのであった。晴明は梨花の心遣いに感じ入り、必ず陰陽道を余す所なく会得すると約束した。


保憲は藤原師輔から雷雨が止まない原因を占うよう命じられ、神社の祟りによる天変だと占った。しかし、詳細がわからないため占い直すことになった。祭神に憤怒の気が見られたことから、晴明は石清水八幡宮の放生会が行われていないことに関係があるのではないかと疑い、保憲に知らせる。師輔が八幡宮に奉幣使を遣わして放生会の件を謝罪すると、天が晴れた。世間では保憲の手柄だと讃えられたが、晴明は少しも不満を抱かなかった。彼が将来について占ったところ、謙虚な心で主人に尽くせば道は拓けると示されたからである。

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