第5話 光り輝く少女

▶時期:天慶五年(942)


白雪の力と地獄の炎がぶつかり合い、激しい爆発が起こった。その反動で、彼女は地獄の深淵に置かれている浮生鏡の向こうに吹き飛ばされた。この鏡は、刑期を終えた罪人が人間界に転生する時の扉として使われていた。こうして、彼女は仙人から人間に生まれ変わった。だが、災いが鎮まった後で地獄の深淵にたどり着いた泰山府君と炳霊帝君は、白雪の姿が見当たらないことから、彼女は自らの命と引き換えに冥界を救ったのだと誤解した。炳霊は白雪は永遠に失われてしまったのだと悲しみに打ちひしがれた。


白雪は仙人であった時の記憶を失い、平安京の北山で倒れていた。ちょうどその頃、晴明は天上から光り輝くものが落下していくのを目撃した。胸騒ぎがして光を追いかけると、倒れている白雪を発見した。だが、成長した彼女を見たことのない晴明は、目の前にいるのがかつて淡い想いを寄せていた仙女だとは気づかなかった。


晴明は白雪を抱きかかえて帰宅し、女房たちに彼女を介抱させた。風変わりな白雪の外見は、賀茂家の人々を驚かせた。数日後に白雪は眠りから覚めたが、これまでの人生はおろか自分の名前すら思い出せなかった。そこで、記憶が戻るまで匿うことになった。晴明は仮の名前として彼女に梨花という名前を与えた。この生活は一時的なものに過ぎないと思っていた彼が、彼女の着ていた真っ白な衣から適当に付けた名前である。


晴明は時々梨花の様子を確かめたが、直接顔を合わせることはなく、御簾越しに彼女と言葉を交わした。彼にとって梨花のような若い女とまともに交流するのは初めてのことで、梨花にとっての晴明もまた、人間界に来て初めて接した男であった。互いの顔がわからないまま、ぎこちないやり取りが続いた。


ある日、いつものように晴明が御簾を隔てて梨花と話していると元気のない様子であった。彼女は慣れない生活に戸惑い、賀茂家の人々からよく思われていないことを知ってとても心細く感じていた。晴明は梨花をこのような状況下に置いたことに責任を感じ、不器用ながらも彼女を励ました。


梨花が賀茂家に匿われて一ヶ月が過ぎたが、彼女の記憶が戻る様子は一向に見られない。梨花をどうすべきか家族会議が開かれ、賀茂家の人々の厄介事に巻き込まれたような反応を見た晴明は、面倒なことを持ち込んだと後悔した。一方、密かに梨花の光り輝く容貌を覗き見た忠行は彼女を娘として受け入れ、立派な姫君に育てることを決意する。

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